「親ガチャ」

あまりにうまく言い当てていて、その言葉を初めて耳にした時、私は

「まさしくこれだな」

と納得した。「ガチャ」とは、「ガチャポン」のこと。私の地元辺りでは「ガチャガチャ」と呼んでいたが。


 コインを入れて、ハンドルを回すと、プラスチックケースに入ったおもちゃがランダムに出てくる。子どもは親を選べない。それの例えだ。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「エンガチョキィ~ッタ!」

エンガチョってなに?誰かに聞くこともなく僕はそれを使っていた。小学校2年生の時だった。クラスで対象にされていたタモちゃん‥‥‥。タモちゃんがさわったものに、ばい菌がついたとみんなで大騒ぎする。僕も加担していた。両手で何かに抱きつくような大きな輪っかを作って

「だれかー!切って~」

と叫ぶ。すると誰かが手で、その輪を断つような動作をする。

「 エンガチョキッタ」

と言いながら。

 

 今思うと、それはそんなにひどいいじめではなかったと思っている。長い期間は続かなかった。陰湿なものでもなかった。な~んて、自分でも言い訳だとわかっているけど。そうだよな、やられた方はたまらないよな。今では反省しているよ。みんな、憂さ晴らしをしたかったのだ。そこに標的としてタモちゃんが選ばれちゃったのだ。


 でもタモちゃんは動じなかった。その見た目がそう感じさせるのか、何をされても嫌がるでもなく、やり返すでもなく‥‥‥。

「2年生で50キロとは、将来はお相撲さんかな?」

健康診断で、僕は思った。

 

 道徳の時間に、先生が言った。

「今、クラスの誰かをばい菌扱いして騒ぐようなことが流行っているようですね。ばい菌扱いをされた子がどんな思いでいるか、みなさんは考えたことがありますか?」

タモちゃんは、それを先生に言いに行くようなタイプではない。きっと先生に好かれている優等生の佐藤さんが言いつけたのだろうと僕は思っている。

「自分だって『エンガチョキッタ』って言ってたくせに」

それ以来、僕のクラスでエンガチョは言われなくなった。

 

 タモちゃんとは出席番号が前後していたから僕はなにかと一緒に行動することが多かった。生活科の校外学習の班や図工の机は、いつも一緒だった。タモちゃんは、人が嫌がるようなことは絶対にしなかった。だから、あの時、ばい菌扱いして本当にすまなかったと、心の底から思っている。今でもこうして思い出す。一方で、タモちゃんは覚えていないだろうと、僕は謝ることもしていない。自分勝手だな。

 

 タモちゃんはあんまり頭がよくないし、体育だって苦手だし、特技と言ったら給食の大食いくらいだ。

 

 僕だって同じようなもんだ。成績は下から数えた方が早いし、体育も好きじゃない。でもタモちゃんといると、少しだけ優越感に浸れるのがうれしかった。適度な距離感をもって、僕はタモちゃんとつきあっていた。みんなに

「オマエ、タモちゃんと仲良しなんだな」

とは言われたくなかった。

 

   続く

 

これにつきまして、一気に①から最終回まで載せたいのですが、その時々の話題もあると思いますので、不定期にアップさせていただきます。