だいぶ前のことだが。
その日、私は娘と2人でスーパーへお買い物に行った。彼女がたまたま家に居たから、手伝ってもらおうと思ったのだ。運転免許を持っていない私は大量の食材購入が結構大変だ。何しろ重い。ママチャリには前後にそれなりの大きさの籠が取り付けられている。見た目など構っていられない。
チャリをこぎながら2人でしゃべっていたら、道端に携帯の落とし物があった。
私はすぐに交番に届けようと思い、
「この近くに交番あったっけ?」
と娘に聞いた。すると彼女は
「かけちゃった方が早いよ。今、これがないと誰とも連絡が取れないんだから困っていると思う」
と何やら操作を始めた。えっ?かける?
そして、その携帯で誰かに電話しちゃった。ちょっとした会話をして切る。しばらく待つと、女性が現れた。
「ありがとうございました」
と笑顔で言われ、終了。
娘は、その携帯の着信(発信?)履歴を見て、一番多い方に繋げ、
「この方の携帯を拾いました」
と告げ、現在地をお知らせしていた。
「近くにいるので受け取りに行きます」
とのこと。
頻繁に連絡を取り合っていたのは彼氏さんのようで、ちょうど一緒にいたらしい。そうなればさらに話は早く、近くにいるということで、無事にその携帯は持ち主に戻った。その間、10分はかかっていなかったと思う。
その時、私は
「そんな見知らぬ人と連絡とっちゃって大丈夫なの?」
と思った。確かにお相手さんは交番に届けられるより助かったことと思う。それに、かけるのにはその人自身の携帯を使っているのだから、問題は無い。
私はその娘の発想にビックリした。いやいや、若者の中ではその行動は、アルアルなのかもしれない。
何年経っても私は思い出しては確認したくなっちゃう。
「娘は自分の個人情報をなにも出してはいないよね。娘は良いことをしたんだよね。相手もとても喜んでいたよね?」
何の心配もないはずなのに、年齢差なのか、もともと機転が利かない私だからか、どうもついていかれない。それは、もしかしたら逆の立場を考えているからかもしれない、と気づいた。
悪い相手だったら御礼として金品を要求する。番号を控えて、後からも付きまとう、などなど。実際、その女性は彼氏さんと共に現れた。相手がフツーの女子で、その横にはフツーのおばさんがいた。さぞかし安心したことだろう。
こんな方法もあるのかと改めて思った。