高校に入学して初めての秋の体育祭。今までの小学校や中学校の運動会では、不得意種目ばかりに、はっきり言って
「楽しい行事というより、授業がなくてうれしい一日」
くらいの感想しかなかった私。足の速い子たちへの憧れもあり、観るのは好きだったから、私は応援だけが良かったな。
球技大会の方が、ちょっとは活躍できるし、みんなの役に立てるし、断然楽しかったな。
ところが、高校での体育祭は違った。まず、種目が単なる「走る」「跳ぶ」に何かが加わる。道具も加わる。私みたいに「身一つで勝負する」ことが苦手な者にとっても、勝つチャンスはある。ネーミングも面白かった。
かごを背負ってそこにトラック1週ごとに1キロの砂袋をふやしながら(重さを増しながら)走る『男はつらいよ』
10mほど走っては、洋服やアクセサリーなど、決められたとおりに取り出し、身に着けていく『バーゲンセール』
これは、男子の種目で、スカートをはいたりして結構面白い。
輪になった大きさの違ういくつかのロープに入りながらクラス全員がA(駅)地点からB(駅)地点へと移動する『満員電車』
これは、案外難しい。どの大きさに何人が入るか、ギュウギュウでは走りにくい。かといってスカスカで、ロープの電車がなくなったのにA地点に多くの乗客がとり残されても失格になっちゃう。
輪になったロープの大きさに応じて上手く人数を移動させて、最後に足の速い男子が1人で小さな輪っかのロープに入って全速力で走るのは見ている方も爽快だ。
『スウェーデンリレー』なんて初めて知った。さすがに長距離を締めくくるアンカーは陸上部員。最初はサッカーやバスケ部員が速いけれど、800mともなると陸上部員のそのフォームがあまりにもきれいで、そのスピードもまったく衰えず、見事に人を抜かしていく。
応援合戦も見ごたえがあった。
太陽が沈むころにはボンファイヤーが始まる。今どき、そんなものやるの?フォークダンスなんて、知らない若者も多いと思う。校舎の陰では告り、告られ、涙も笑顔もあった。私は関係なかった。
そして、クラスごとに、もしくは体育祭委員のグループで、繁華街に出て打ち上げ。その頃はある意味はじけていた。堂々と飲酒喫煙。時のたつのも忘れ、楽しんだ。
さて、最寄り駅に戻ると、改札のところで母が鬼の形相で待ち構えていた。
「2時間以上待った!!」
「家と駅を何回往復したと思ってるの!!!」
「そんなの知りませ~ん。いいかげんにしてほしい。私、高校生です」
と心の底から思った私だったが、母に口答えをすることはできなかった。今みたいにスマホがあったら、さっさと家に電話して済ませることができたのに。
「今日は帰りが遅くなる。10時までには帰る」
と言うための公衆電話がなかなか見つからない。
心配性の母の気持ちも今ではわからなくもない。高校生、一番危なっかしい年齢だもの。