結婚して、ある程度年月が経った頃、

「あぁ、これが本家というものか‥‥‥」

と分かり始めた。独身時代にまったく経験したことの無い行事?お彼岸には親戚が集まり、お墓参り、お盆には提灯をぶら下げてお墓まで歩いて仏さまをお迎えに行く。

 

 小さい頃、父に連れられておじいちゃんおばあちゃんの家に行った時、体験したけれど、どうしてウチはやらないのか不思議に思ったものだった。「本家」の意味も分からなかった幼い頃だ。

 

 義母の姿を見て、見様見真似でやってきた私だったが、義母が70前に亡くなった。私たち夫婦は、まだ40代だった。それまでは決められた仕事のように思っていたが、知った人がお墓に入っているとなると、意識はがぜん高くなる。義母の命日、誕生日などにもお墓に行ったり、仏壇の前で正座をし、手を合わせるようになった。

 

 数年前に実父が亡くなった。実家は初めて仏壇を用意することになった。母と弟と仏具屋さんに行った。一体何をそろえるのかもわからなかった。当たり前だがスタッフさんが一通り説明して、用意してくれた。

 

 そうして私は初めて夫の実家の仏壇をまじまじと見るようになった。すると、びっくりするものが置いてあった。

 

 義父は

「ご先祖様のおかげ」

をよく口にする。頑固なところもあり、義母が亡くなった時など、夫とその兄弟が陰で

「おふくろは、おやじの言動がストレスだったと思う。だからガンになった」

とか、

「おやじはわがままだ」

とか、義父が義母を早死にさせた、くらいの勢いで言いたいことを言っていたのを聞いた。みんな優しくて太っ腹なお義母さんが大好きだったからなぁ。でも実の父のことをそこまで言ってはならぬと思うのだけれど。

 

 義父は、確かに自分の主張が一番、ってところがあり、気分屋さんだった。

「私、そんなに怒られるようなことしたかしら?」

と思うほど、不機嫌な態度をとられたこともあった。それでも何かの折には

「ご先祖様のおかげ」

とつぶやく義父。

 

 仏壇に先祖の位牌以外に、段ボールのようなちょっと固い紙がいくつか並んでいた。ちょうど位牌くらいの大きさのもの。そこにはお香典返しの際に入っている

「無事に納骨いたしました」

というごあいさつ文の中の戒名部分を切り取った紙が貼ってあった。一瞬、笑っちゃったけど、義父は、そうやって亡くなった方のために時間を割いて自分なりに供養しているのだと思った。亡くなった方が人生を全うしたことに敬意を表しているかのようだった。

 

 仏壇には、通常、直系家族の位牌が置かれている。そこに混じって親戚や見知らぬ人(義父の近しかった友人かな?)……。私の父の戒名も見つけた。なんだか、胸に響いた。それはただのダンボールだけれど、立派に位牌の代わりを務めて、シャキッと立っていた。