私の小学校の教科書にはいつもカバーがかけられていた。と言ってもそんなオシャレなものじゃなくて、母がどこかのお店やデパートの包装紙でくるんでくれたもの。毛筆で「国語」とか「算数」と表紙に書いてあった。それはクラスで私一人だけだった。ちょっと恥ずかしかったし、パッと見て何の教科書かわからないのが難点だったけれど、教科書は大事なものなんだって教えられた気がする。

 

 親になった私は、子どもが使い終えた教科書をしばらくとっておいた。小学校だけでも3人分の6年分だから、結構な場所を占領していたが、何となく捨てられなかった。

 

 次男が小学校を卒業してしばらくしたころ、ご近所さんに

「子どもが音楽の教科書をなくしちゃったんだけど、もし、まだ捨ててなかったら貸してもらえるかしら?」

とお願いされた。

 

 教科書って最初はタダだけれど、なくすと買わなくちゃいけないんだって。でね、これがその辺の本屋では売っていなくて、ちょっと面倒らしい。私が

「あるわよ~どうぞー」

と即答したらとっても喜ばれた。何しろ教科書なんてその学年が終了したら、すぐに捨てる人ばかりだって‥‥‥。そうかぁ、そうなんだ。

 

 私が捨てられない理由は何だろう?母の思いがルーツになっているのかな。そこに加えて、教科書にある子どもたちの書き込みや落書きが捨てられない原因なのかな?

 

 さて、それから数年が経ち、その音楽の本が私の手元に戻ることはなかった。私はお貸ししたつもりだったが、あの時彼女に

「もらえる?」

って聞かれたっけな?

 

 中学校の教科書もたまり始め、もう「音楽6」は戻ることはないと確信し、私は思い切ってすべての教科書を処分してしまった。

 

 今後は、タブレット1台で済むのだろうから、こんなことで悩む親はいなくなるだろう。でも紙の教科書(本)の良さってあるんだよ~。


 たまぁに、あの教科書が懐かしくなり、後悔もする。せめて一冊ずつでも残して置いても良かったかと。「地図帳」とか、「中学地理」「中学歴史」を開いて調べてみたくなる時がある。ネットじゃなくて、あの紙に触りたくなる時がある。