娘の結婚から、 もう10年が経った。

 

 その時「花嫁の母」って、結構忙しいことが分かった。私が結婚した頃なんてそんなものはなかった。

 

 例えば、「リングピロー」と呼ばれるもの。それは新郎新婦の結婚指輪を挙式当日の祭壇に置いておくための物。ちょうどクッションや枕のようにフカフカなものなので、リングピローとかリングクッションと言われているらしい。それは、花嫁の母が手作りするらしく、娘は私のお裁縫の苦手なことを知っていて、申し訳なさそうに

「おかあさん、手作りしてもらえる?」

と言ってきた。

 

 普段から子どもたちはあまり私に頼みごとをしてこない。が、その時の娘の気持ちはよく理解できた。『結婚とは、お相手がいる』ってことだ。彼だって、そんなものにこだわる人ではないが、お姑さん、この方が後ろに控えていらっしゃるのですよ。早くに亡くされたお母様の代わりとなって妹さんの面倒を見てきた、2人の息子さんを愛情深く育ててきた、そういうお母さまなんです。そうなったら娘は

「あ、ウチの母はお裁縫が苦手なので、買います~」

とは言えない。娘のために力を尽くす母親を見せておきたい。

 

 私だって、娘にお願いされちゃあ仕方ない。と言っても私のような不得手な母のために、それなりのキットが売られていて、それを買ってきちゃった。「ひと針ひと針心を籠める」どころか形になるよう縫うのが精いっぱいだった。

 

 また、当日は、ダウンベールセレモニーと言って、バージンロードの入り口で花嫁のベールを下すお役目もあった。

「嫁ぐ娘に母親ができる最後の手助け」

だそうな。なんだかここぞとばかりに皆様のお涙頂戴演出をしていませんか?

 

 リングピローだってその由来は古代エジプトの宝石を置く台なんですって。ということは今から40年も前の私の挙式の際にもあっても不思議ではない。もちろん、そんなものはなかった。ダウンベールセレモニーも私にとってはちょっとこっぱずかしいです。

 

 それにさあ、嫁ぐ娘に母親ができる最後の手助けって、なにそれ?その言葉に間違いはないかもしれないが、我が娘、結婚後もなんだかんだと実家に来る口実を作っては現れ、冷蔵庫の中身をお持ち帰りになられる。 


 だからやっぱり、これらはやらせに思えるんですけど。