今から15年ほど前、友人を通して知り合ったご夫妻がいる。

 

 ご主人は会社の代表で、お二人にはお子さんがいらっしゃらなかった。ご紹介がなければ私たちが知り合う機会は絶対ないご夫婦。はっきり言ってお金に不自由のない方々。

 

 ただ、私たちのお付き合いは、年に2回ほどお酒と食事をする程度。しかも他にも何組かのご夫婦がいらっしゃった。1対1(2対2?)のおつきあいではなかったので、私たちもなんとか頑張る(?)ことができた。


 そのご夫婦もその時は世間並みの経済感覚に合わせてくれたと思う。そして、お話も面白かった。みんなでワイワイできて、気さくな方たちばかりの集まり。本当に余裕のある方って、穏やかなのね。

 

 そのご夫婦、お子さんに恵まれず、

「二人で人生を楽しもう」

と決めてからは、国内旅行はもちろん、海外旅行、テニス、乗馬、ゴルフ、お酒(ワインは特にお勉強なさったとか)色々と楽しんでこられたそうだ。海外旅行は日本から遠いヨーロッパなどの地域を若い時に回り、あとは近隣諸国を残すのみ、なんですって。身につけていらっしゃるもの、ちらりと見たが、どれも高級そうなものばかりだった。

 

 こっちはため息をついちゃう。お二人は私たちより、一回り以上年上のご夫妻だった。そんなこともあって、人生の最期についてよく話題にされていた。子どももいない、当然後継ぎはいない。(何なら私たち、相続しますが。もちろん、軽い紙きれだけ、面倒でなければ……って、そんなことできない)

 

 そこで、

「世界1周豪華客船の旅なんていいんじゃない?ぜーんぶお金を使い果たすの」

ってケタケタと笑いながら奥様が提案する。こういう発言をなさっても全然嫌味に聞こえず、

「でもさあ、亡くなる時がわかれば何の問題もないわけよ。それがわからないから困るわけよ」

とご主人。周りで聞いていた私たちも大きくうなずく。そしたら旦那様

「横浜港が見えてきたら、お互いに海に飛び込むのはどうか」

って。奥様は

「だってあなたは良いわよ。カナヅチなんだから。私は泳げちゃうから苦しいのはいやだもの。自然と手足を動かしちゃうわ」

なんか、笑えるような笑えないような話。

 

 欲しかった子どもを持つことはできなかったが、お金には不自由しなかった、その優雅な生活。一方、遺すものはないけれど、子どもやそのパートナー、孫に囲まれた私たち。人生いろいろだが、やっぱり平等に最期の選択はできないことになっている‥‥‥。

 

 実はそのお仲間とはすっかりご無沙汰になってしまい、あの楽しいご夫妻もどうなさっているのやら。そろそろ80歳を迎えるはずだ。お元気でいらっしゃることを願うばかり。