学生時代のクラスメートが急に私の家に遊びに来たいと言ってきた。結婚して5年余が経った頃だった。それほど仲良しでもなかったけれど、私も子どもらが小さくてお出かけどころか、ドタバタ生活を送っていたから、お客様は刺激にもなるし、喜んでお迎えした。

 

 彼女、学生時代にそんな華やかさはなく、ほんとにフツーの女性だった。どちらかと言えばお地味かも。ブランド物1つ身につけず、学業に励んでいた。公立幼稚園に就職なさったとうわさで聞いた。

 

 ところが、彼女は4歳のお嬢さんを連れ、颯爽とベンツで乗り付けた。手にはヴィトンのバッグ。(今では一定のファンだけと思いますが、その頃は大人気でした。猫も杓子もヴィトンでした)別人かと思わせる雰囲気が漂っていた。

 

 我が家は既に3人の子どもがいたが、幼稚園の先生でもあった彼女とそのお嬢さん、すぐに打ち解けて楽しく遊び始めた。初めてのご対面でも子ども同士ってすぐに仲良くなる。大人が入らなくても大丈夫、と私たちはおしゃべりを始めた。

 

 するといきなりです。なんだか資料?カラーのパンフレットをヴィトンのバッグからおもむろに取り出し、彼女は商品の説明を始めた。私は怪しい感じがした。よくよく聞いていくとねずみ講のようだ。ただ、そこで初めてピシャリとお断るのも私にはできず、乳液だったか、洗剤だったか、石鹸だったかを買った。「肌に優しい自然由来の何とか‥‥‥」っていうのが売りと言われた。

 

 その後、彼女は頻繁に連絡をしてくるようになった。電話と手紙。私はもう、鬱陶しかった。おしゃべりも楽しくないし、もともとただのクラスメート、昔の話が弾むでもない。そのうちに

「新商品が発売される」

とか

「一般購入ではなくて、何とかというランクの上の販売員になれば儲けることができる」

なんて話が飛び込む。

 

 2度目に我が家にやってきたとき、新商品としてアクセサリーを持ってきた。

「あ、これは断れる」

と思った私は

「このアクセサリー、普通に金や銀の色をしているけれど、身体に優しい成分が入っているの?」

と言ってみた。だってそれがそのお店の売りだって散々聞かされていたから。それのどこが自然由来なの?

 

 彼女はそれ以来2度と連絡をしてこなかった。今も高級車に乗ってブランド物のバッグを下げているのかしら?