長男出産から2か月後といったら、まだまだドタバタ、疲れ果てる日々を過ごしている時期だった。しかも第一子。今思うと、長女、次男出産後の方が忙しいはずなのに、「初めて」ってのは、どんなことでも大変だ。

 

 実家の母は、滅多に電話をかけてこないが、結構朝早い時間にそれはあった。

「beachan?私は今日悲しくて悲しくて‥‥‥」

で始まった。その日は成人式。1月第2月曜日?に移動されて、今年は既に8日にすんでいるが、 今から40年ほど前、それは1月15日に決まっていた。妹のお祝いだ。ところが当の本人は、海外旅行の真っ最中。母は妹にお振袖を用意したかったが、

「それはいらないから、ヨーロッパの本場のファッションショーが見たい」

と出かけてしまったと嘆いている。妹はアパレル関係に興味をもち、専門学校に通っていた。私と正反対で手先が器用でもあった。

「朝、洗濯物を干していたら、振り袖姿のお嬢さんが通るのよ。それを見たら泣けて泣けて、今日1日、外にも出られない」

と訴える。

 

 こっちはそれどころじゃない。赤子が寝ている間に少しでも家事をしたい。できれば眠りたい。

「はいはい」

と適当に返事をして終わり。さらにその後

「ある意味、私は親孝行をしたわ」

なんて思った。当然のようにお振袖を用意してもらったけれど、感謝しなくちゃ、バチが当たる。

 

 私が20歳の時、何十年ぶりかで復活した隅田川の花火大会に行くと言ったら、母は1日で浴衣を縫ってくれた。和裁を習った母は、お着物にも特別な思いがあったのだろう。贅沢とは程遠い母だったけれど

「人並みには育てたい」

と言って私たち3人を育てた。

 

 そして、親になって気付くこともある。母は、長女と次女に差をつけることなく、同じように 思いを寄せたかったのだ。「第1子と2子3子、写真の枚数がどんどん減る」とはアルアル話だ。どうしても手間のかけ方に違いは生じてしまうが、せめてお金のかけ方は同じにしたかったのではないか。

 

 今さらだけど、言わせてもらうよ。

「お母ちゃん、素敵なお振袖をありがとう」