ある年のクリスマス前日、私は1人で窓ガラス拭きに取り組んでいた。子どもたちもそれぞれ社会人となりプレゼントを用意する必要もなくなった。クリスマス用のお料理もしない。楽になったようでいて、どことなく寂しい年の瀬。今夜は笑い声も期待できない。せいぜい夫と2人でケーキでもつつくか……。

 

 「なんで私1人で掃除しなくちゃいけないの⁉」

掃除をしなくても年は明ける。でも何もしないのも気が引ける。1年にたった1回しか拭かない窓ガラスは、キッチンの北側にあった。やる気もないけれど、仕方なくシステムキッチン台に上がった。外側から拭こうと窓を開け放ち、手を伸ばしていた時、口笛が聞こえてきた。その曲は、私が大好きな『アメージンググレース』だった。

 

 その日は冬晴れ、澄み切った青空と凛と張りつめた冷たい空気がさらにその音を響き渡らせる。その人物は東から西へと歩いていた。私は5センチほどの隙間だけをつくって窓ガラスを急いで閉めた。模様の入ったすりガラスに映るおぼろげなシルエットを一瞬だけ見て、目をつぶった。その口笛に聞きほれていた。

 

 一体どなたなんだろう?このあたりにお住まいではないのかなぁ?こんなに素晴らしい口笛、聞いたことない。私は

「これは神様がくれたプレゼントだ」

と思った。だから私は咄嗟に窓ガラスを閉めたんだもの。その男性が頭の禿げたおっちゃんだったり、腰の曲がったおじいちゃんだったりしたらがっかりだ。(すみません)どうか、ルックスのいい若者であってほしい。

 

 アラ還ともなれば、誰でもそれなりにプレゼントを受け取った経験はあるだろう。私は夢見る夢子ちゃんと対極にいる人間だと思ってきた。バラのお花もうれしくないわけじゃないけど、ケーキのほうがうれしいかな。貴金属なんかだったら、なお喜ばしい。そんな私が今までで最高のプレゼントだと思ったのが、形のないこれである。不思議だなあ。

 

 この世のものではないと思うほど素敵だった。この時期に思い出し、そしてもう1度聞きたくなる……。