今日1日を振り返ろう

 久しぶりにバスに乗った。途中で小学校中学年くらいの男の子と先生(補助指導員さん?)が乗ってきた。そう、その男の子は自閉症のようだった。乗り込んですぐ、運転手さんの後ろ辺りの手すりにつかまってしまった。そのバスはそれほど混んでいなかった。そして、彼らの後にも数人の方が乗ろうとしていた。


 入口付近で人の流れが滞ってしまうことを危惧し、先生が

「止まらないで、奥に進んで!」

と男の子に向かって言ったが、彼は手すりを離そうとはしなかった。その場から動こうとはしなかった。バスの運転手さんも今はとても慎重で、車内の転倒事故などに留意し、皆さんが落ち着くまで発車はさせない。バスは当然その停留所で長く留まることになった。

 

 すると、その先生、いきなりランドセルの両肩の部分を持ち上げて彼を無理矢理引きずるようにして移動させ、優先席に座らせた。もちろん、先生は、その子の日常を把握し、理解しているわけで、強引にでもそうしないと、本人が怪我をする恐れがあるとか、他の方に迷惑をかけるとか、理由はあったと思う。


 ただ、その先生のリュックがとても大きくて、他のお客さんに当たった。そして、先生は余裕もないのか、何の一言もなかった。「すみません」くらい言ったらよいのに、と私は思った。だって、女性がよろけそうになっていたの。先生は、それも気付かなかったのよ。

 

 彼らが降りたのは乗ったバス停から5つ先くらいだったと思うが、その間ずっと男の子が大きな声で何やら独り言を言っていた。先生はその都度、

「静かに!」

と注意していた。男の子は

「ハイ、わかりました。静かにします」

と抑揚のない声で応えるのだが、すぐにまた何か言葉を発している。そして先生の言葉が繰り返される。私は、先生の

「静かに!」

の方が気になっていた。あきらめ、とは違うが、そのままでもよいと思うのだけれど。でも中には

「うるさい!」

とか言っちゃう怖ーい乗客もいるかもしれない。あぁ、ホントに優しい世の中になってよ!

 

 そして、極め付きは、降車するときのことだ。まず先生が素早く降りた。が、男の子は降車ドアーの横の手すりにつかまったまま、一向に降りる気配がない。すると先生が怒鳴った。

「早く!早く降りろ!」

と。私はなんだか心がぎゅっとなった。そして、それまで何となく2人の行動から目を伏せていた私だが、その光景に目をやった。男の子の後ろで、おじいさんが降りようとしていた。おじいさんは待ちきれず(?)というか、自分が先がいいかと思ったらしく、降りていった。するとそのすぐ後を男の子がスムーズに降りて行ったのだ。

 

 ああ、彼はおじいさんに譲ったのだ。先生、完全に余裕がなくなっている。彼や周りの人に事故や怪我がないように、学校生活、下校を含めて1日中、目が離せないだろうとは想像がつく。でも私は先生に

「そうか、○○君はあのおじいさんに譲ってあげたんだね」

と言ってほしい。少なくとも気付いてほしい。そんな思いでバスのガラス越しに先生の顔を見たが、目尻は上がったままだった。

 

 彼のママは、そんなことは知らない。今日も無事に1日学校生活を終えて帰宅した自分の息子を見て、ホッと安堵していることだろう。私はその出来事をママに伝えたいくらいだった。

 

 先生は、あんな風に毎日毎日目をつり上げて生徒達と接しているのだろうか。お給料はどれほどなのだろうか。一体なにを詰め込んだら登山に行くほどの大きな黒いリュックに膨れ上がるのだろうか?


 そんな1日だった。


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