先日から、友人グループのラインが飛び交っている。特に高校時代の友人グループでは、「青春のひとこまを失ったようだ」と皆ショックを受けている。

 

 そう、谷村新司さんが亡くなられた、との報道に私たちの間で悲しみが拡がった。音楽家の谷村さんは、数々の素晴らしい曲を作り、演奏し、歌ってこられた。『アリス』というグループでの活動もあった。そして、日本のみならず、海外でも友好の架け橋となるべく、ご活躍されていた。『サライ』や『昴』はとても有名だが、私は『遠くで汽笛を聞きながら』が好きだ。汽笛の聞こえる場所になんて住んだこともない私だけれど。

 

 「なにもいいことがなかった街ではあるが、自分はこれからしっかりと大地に足をつけて生きていくんだ……」と。歌声も魅力的だが、この曲だけでなく、哀愁や切なさの中に、何かに立ち向かう力強い生きざまが感じられる歌詞が多く、惹かれていく。

 

 実は私達(高校時代の友人)の心にあるのは、歌手としての谷村さんだけではない。思い出深いのは、『セイヤング』というラジオ番組だ。チンペイの愛称で親しまれ、瞬く間に大人気となったDJとしての谷村さんだ。私が最初に耳にしたのは、中学生の頃だった。勉強のふりして、深夜にこっそり聞き始めた。どこか優しい、穏やかな語り口調とその内容に惹かれた。でもまだ親の目も気になる私だった。

 

 高校生になると、どっぷりとはまった。自室の机の上には、大きなテープレコーダー付きラジオが教科書やノートより堂々と置かれ、突っ伏したまま、気付くと朝を迎えていたことも数知れず……。翌朝(当日だわ)、友人との話題には必ず谷村さんが登場した。

 

 番組の中で「天才秀才バカ」というシリーズがあって、面白かった。リスナーさん達の投稿作品だ。天才、秀才のひと言のあとにバカがオチのつくひと言を発する、というパターン。いつからか、(もしかしたら最初からだったかな?)ばんばひろふみさんも登場し、その独特な笑い声がラジオから響く。しっとりとした内容のお話もあった記憶もあるが、思い出は、やっぱり笑い。

 

 やたらと下ネタも多くて、それも高校生の私達にはウケたのかもしれない。私がたった一つ覚えているものがある。「下から読むと面白い文章になるシリーズ」があって、谷村さんが淡々と、でも心にしみるあの声で、お葉書を読み上げた。

 

「ロイくん、ピンポンたのめよ」

 

 友人がロイくんに

「彼女と仲良しになるために、卓球を一緒にやってくれないかと、誘ったらどうか」

と提案したというシチュエーションだ。そして、それを逆さからこれまた淡々と谷村さんが読み上げる。その後「ロイくん」という名前に突っ込みを入れながらもツボるチンペイ、ばんばん。私もお腹を抱えた。

 

 「『セイヤング』がなかったら、もう少し数学の成績が良かったかな」

という、涙の友人に

「数学ができなくても英語ができなくてもあの『セイヤング』を聞くことができたこと、今となってはそっちの方がずっと価値が高いよ」

と私は返した。私も仲間だもん。

 

 谷村さん、ありがとうございました。と言いつつ、淋しすぎる。