その昔、両親が自分たちでやっていたのを見ていた。今では畳敷きの和室があるお宅も少ないだろうから、障子の張り替えなんて若い人は知らないかもしれない。

 

 私が子供の頃は、先ず、障子紙が今のように1枚幅分のロールになっていなくて、段ごとになっていたから張るのも大変だった。今では大きなロールを縦に転がせば1回で貼り終える。が、昔は、木の桟1段ずつに刷毛で糊を付け、幅1段分のロールをころころと横に転がすのだ。そして定規とカッターを使って切る。それを5,6段も繰り返していく。そして、必ず下の段から張っていく。上の段から張ると桟のところの紙の重なる部分が上向きになって、そこに埃が溜まるから。昔の人、几帳面ね。

 

 糊だって、専用のものがチューブになって販売されている今とは違って、その頃は小麦粉だか片栗粉だかを溶いて鍋で煮詰めて作っていた。張り終わった後、父や母は水を口に含み、プーっと吹きかける。あの頃だって霧吹きぐらいはあったろうに。でもその姿が豪快で、私は面白かった。

 

 見よう見まねで何とかなるものだ。やっぱり実際に見ているってことは大事なことだ。自分にもできそうな気がするのだ。知らなくてもネットで検索すればやり方の動画が出てくると思うけれど、そこまでしてやらないだろうな。専門業者さんに依頼してしまうだろう。お料理なんかでも文字で書いてあることや聞いたことより、見るほうがよっぽどわかりやすい。「百聞は一見にしかず」とはよくいったものだ。

 

 子ども達が小さかったころ、よく障子を破かれて、毎年12月に張り替えていた。最近では夫婦2人となり、破く人も汚す人もいなくなり、大変さもあって毎年やっていない。ズボラな私らしい。

 

 ある年、なぜかやる気になり、とある小春日和に師走を待たずして早々に手掛けた。いつもだったらやっとの思いで重い腰をあげて、取り掛かりは12月半ば過ぎだ。だから、自慢げに両親に報告した。すると父が言った。

「あれあれ、それじゃあ、もういつ正月が来てもいいね」

そこで私も返した。

「そうだよ。おとうちゃんが最近『疲れた、疲れた。今年は年越しは無理だろうなぁ』っていうからさあ。早く年が明けるように早く準備しちゃったよ」

 

 父の笑顔の瞳が潤んでいた。