子ども達が幼稚園から小学校の頃、商売をしていた父は時間があるとちょっと足を延ばして配達車で我が家に来た。孫の顔見たさなのか、お茶休みなのか。
まだまだ夏の暑さが残る時期、父とお茶を飲んでいると、ちょうど長男が息を切らせて帰ってきた。というより近所で友だちと鬼ごっこをしている最中、あまりにものどが渇き、一旦戻ってきたと言う。まあ、その姿は汗と泥にまみれていた。ほふく前進したかのようにTシャツは泥だらけ、真っ赤な顔の汗をぬぐったのか、そこには指の跡がついている。するとそれを見た父が一言。
「こんなに汚してきて、怒らないのか?」
私はすぐに言い返した。
「今は、怒るどころか、褒めるほどだよ。監視の目を光らせていなければ、ほとんどテレビゲームをするんだよ。そんな中で、思いっきり外で身体を動かして友達と遊んでいるんだから」
「昔は『そんなに汚して来たら洗濯が大変じゃないか!』と怒鳴られたもんだ」
「あ、そういうことね。そんなの洗濯機がやってくれるもん」
昔の生活話はよく聞かされた。
「今は写真を撮るといえばみんな笑顔でピースサインまでしちゃって……。俺らの頃は『歯を見せるんじゃない!』って先生に言われたから、みんなキリッとしていたよ。歯なんか見せたらアホに見える」
ちょっと!アホは言いすぎじゃない?
妹の結婚の時も父なりの筋道を通していたっけ。
「入籍だけでいい」
という妹に
「親戚の前できちんと報告が必要だ」
として、半ば強引に食事会を設けた。父の兄弟だけでなく、母の兄弟姉妹もわざわざ田舎からやってきた。そうだ!私の時も進行予定を見せたら
「親戚代表の挨拶がないじゃないか」
と、強引にその時間を作った。披露宴は、お客さんだけじゃなく、親戚も大事なんだと。
「お互い簡単に惚れました、籍を入れました、子どももできました、でも暮らしてみたらやっぱり駄目だったので別れます、では困る」
と言う。
「自分たちは結婚をしてしっかり生活していきます」
という姿勢を親戚家族の前で見せなければならないと。
80を過ぎた頃からだろうか?父の写真に笑顔が増えた。
「おとうちゃん、その昔、写真で笑っちゃダメだっていってたよね?」
なんて私は突っ込まなかったけれどね。だって笑顔の方が断然魅力的だもの。
この前は、次男の友人ができ婚(あ、今はおめでた婚と言うそうですね)したんだけど、25歳でバツが付いちゃった話をしたら
「そうだよそうだよ。好きでもない人とこれから何十年もやっていくことなんてないんだよ。さっさと別れて次の道に進めばいいんだよ」
えっ?昭和一桁おとうちゃん、いつからそんなに柔軟になったのよ!でも確かに時代の流れに乗るって大事だものね。