ソファーの皮の貼り替えをして、それなりの金額を支払うことになった。家具量販店で新しいものを購入すれば、いくつも買える金額だ。でもそのソファーは、結婚のお祝いとして今は亡き夫の祖母が贈ってくれたもの。特に夫は初孫、小さい頃から相当かわいがってもらったらしく、彼のおばあちゃんへの想いも格別だった。だから、40年近く処分することなく使ってきたし、リメイクしてこれからも大事に使うことにしたのだ。

 

 その業者さんは、今時珍しく、振込支払いなしのキャッシュ払いオンリー。もちろん、できあがり確認が必要だから、きちんとそれをしてから(対面だから)現金、ってことになる。ってなわけで、私は郵便局で大きな額を引き出すことになった。カードを作っていなかったのは、失策だった。窓口に向かう。

 

 予想はしていたが、若い男性スタッフさんに

「何に使うのですか?」

と聞かれた。それさぁ、いつも思うのですが、何に使おうと私のお金なんです。なんでそんなことまで知らせなくちゃいけないの?詐欺が横行しているから、とは分かるけど。

「ちょっと大きな買い物しちゃって……」

「どちらで?」

って、支払先を聞いてきた。言葉に詰まっていると

「今、色々な犯罪が起こっているので……。ご一緒に振込作業お手伝いしますよ」

って言われた。あれまぁ……。

「これはオレオレ詐欺ではないです。ちょっと買い物をしたのですが、そこは現金払いしか受けてもらえなくて」

と言ったけれど、許されず、奥からベテラン?女性がやってきた。

「定期的に警察に報告しなければならないんです」

と言うではないの!「えっ?どうして私の買い物内容を警察に知らせなきゃいけないのよ!私、そんなに騙されやすそうな顔してますか?そして、私、 人として普通に生きてます」と心の中で怒りながら、顔はなるべく口角を上げて……。そこで閃きました。いいアイディアが浮かんだのです。

 

 「実は息子の結納金なんです」

ガラス窓越しに小さな声でささやく。

するとその女性、

「まぁ、おめでとうございます」

と言って、さっさと現金を引き出してくれました。私の年齢なら、ギリギリ「花婿の母」として「結納金」も許されたんだろう。「今時珍しいですね。どんなお家柄ですか?」くらいは思われたかもしれないけれど。フツーの家です……。

 

 ウソをついたことはちょっと心苦しかったけど、翌日カードを作りました。それにしても「買い物」ではまったく通らなかったお引き出しが、「結納金」でいとも簡単にスルーとは?自分で言っておきながら、世の中これでいいのでしょうか?