住宅街を歩いていた時、前方の壁を伝いながらよたよたと歩くご高齢の男性の姿が目に入った。きっと80代だろうなあ。フェンスに手をかけて歩いている。フェンスが途切れたところになると道1本隔てたフェンスにつかまろうと、速足に前かがみになって転びそうだ。ご病気かもしれない。急いで近づき、腕を持って支えて一緒に歩くことにした。

 

 「失礼します。どちらまでいらっしゃるのですか?一緒に行きましょう」

「あ、ありがとう。あそこの老人ホームに帰りたいんだ」

 

 それは、50メートルほど先にあった。そこに入居されていて、ちょっと買い物に出たそうだ。本当は移動販売車が月に何回か来て、必要なものはそこでほとんど揃うのだけれど、それらの品物は高いのだと言う。そのために、近くのお店まで内緒で出てきちゃったとのこと。同じ品物が安く求められるんだそう。

「危ないからどなたかについてきてもらったらどうでしょう」

と言うと

「怒られちゃうんだよ。勝手なことしちゃダメだって」

って。

 

 そもそもお小遣いは誰がどのように管理しているのだろう?身の危険を冒し、規則を破ってまで節約に励もうとしたおじいちゃん……。自由になるお金の額はいったいどれだけだったのだろう?スタッフさんは、怒りはしなかったかもしれないけれど、おじいちゃんにはそう感じられたのだろう。私は気の毒になった。同じ年頃の親を持つ私としては、身につまされる思いだった。