私が小学生の頃、実家で猫を飼っていた。その理由というのが、我が家が米屋を営んでいたからだ。夜、屋根裏で、「ネズミの運動会」が始まる。今ではそんな言葉、聞かないけどね。夜になると、ネズミの動きが活発になる。トコトコ、なんてかわいいもんじゃなくて、ド~ッ、ド~ッと多くのネズミが右へ左へと駆けまわる。今じゃ、『猫いらず』なんていうネズミの駆除剤があるけれど、猫を飼うとは、ネズミ退治の最も原始的な方法だ。

 

 でも子どもの私たちは、ペットとしてかわいがった。猫じゃらしという草を摘んできて猫の前で振れば、あの丸まっこい手でじゃれる。冬の寒い日は一緒に寝ると暖かくて、弟と取り合いになった。猫にとっては迷惑だったろう。朝目覚めた時に彼が横に居ることはなかった。名前も付けてもらえず「ネコ」がそのまま呼び名となった。フラフラと家の周りを歩き、ミャーミャーと鳴き、顎を撫でれば気持ちよさそうに目を閉じる。犬に出会えば背中の毛を立たせる。食べ物は残りご飯に味噌汁をかけた、いわゆる「猫まんま」だった。それでも美味しそうにペロリと平らげていた。かわいかったな。

 

 その彼、期待以上の活躍をした。昼間、ネズミをくわえて堂々と現れる。追いかけっこの時もある。すると父が米30キロ用の紙袋を持ってきて、その中に2匹を追い込み、口を軽く縛る。弟と2人、それを見つめる。一体中で何が起こっているのか想像しながら……。袋が破けたらどうしようと思うほどの動きから始まり、それが徐々に収まっていくまで、ただただ袋を見つめる。袋の口をほどくと、何事もなかったかのようにネコが現れる。時々は口の周りに赤い色を付けていた。そのあとの袋の中は、恐ろしくて2人とも見ることができなかった。父もそのまま袋ごと処分していた。

 

 今はほとんどがペットとして飼われている。家族の一員だ。それはそれで、猫ちゃん達は幸せだ。ネズミなんて見なくなったし、駆除剤も売ってるし……。でも、私にとっては、あのネコこそが猫なのだ。かわいい一方で自ら獲物を仕留める能力を持った格好いいネコ!今見かけるまん丸な目の愛くるしい猫ちゃんとは違って、一本の線のようなつり目で、身体の模様はグレー、黒、シルバーのトラ柄だった雑種のネコ!時代の流れとはいえ、猫達の能力が奪われていくのが、自分のネコの思い出が薄れていくようで寂しい。