今から30年ほど前のこと。35歳の節目検診の案内が届いた。忙しいと、スルーしてきたが、母が

「やっときなさい」

と言うもんだから、初めて重い腰を上げた。確かに10歳以下の3人の子もち、寝込むわけにはいかないか。前夜のおやつもアルコールも我慢して、翌日の検診の日を迎えた。

 

 このところの猛暑続きで、朝の水も飲めないのは辛いが(あ、最近は水くらいは飲んでいいんだよね。30年経つと変化があるもんだね)そこは我慢我慢で末っ子のお弁当を作り始めた。ところが、つい、いつもの癖で、おにぎりを握った手に付いたご飯粒をペロリと舐めてしまったのよ。「えっ、あっ、うっそ!」と思った時はもう遅し、ゴクンのあと!でもここまできたのだから、検診をパーにはしたくないし、とりあえず会場へ。

 

 私よりずっとお年の上の方が多く、ごった返していると言っていいほど混んでいた。まず最初はレントゲン。70代くらいの方々の中に30代はちょっと扱いが違うかしら……なんてのは自意識過剰。それに今はお年寄りにとっても手厚い。あちらは仕事、まったく変わらず

「吸って~、吐いて~、吸って~、ハイ!(びっくりするほどここが強い)止める!(もうほとんど怒られている気分)はい次の人!」

 

 あっけなく終わる。そして採血やら眼底検査等々終了して、いよいよ問題の胃のレントゲンだ。あのバスに乗り込む。奥にはしっかりとしたドアがもう1枚あって、その中で1人づつ検査を受けるらしい。2~3人の人が待っていた。私は早速そこに立つ助手のような人に小声で囁く。

「あの~朝ちょっと食べちゃったんです」

「何をどれくらい?」

「ご飯粒3粒」

「あ、平気です」

 

 私はほっとした。いよいよ名前が呼ばれ、飲んでも飲んでもなかなか減らないバリウムをどうにか押し込み、ドアの中に入ろうとしたまさにその時、

「次の方、ご飯3粒食べてま~す」

しかもすっごく大きな声で。

 

 ちょっとォ!大丈夫って言ったじゃない!人の笑い声を背に、私はズンズンと中に入り、検査を受けました。