この世で嫌いなモノベスト3に入ります。あの「キーン」という音を聞くと、痛くないはずの歯まで痛くなりそうだ。
小学校入学前の健康診断で私は多くの虫歯が見つかり、初めて歯医者に通った。その後も、本来なら乳歯が永久歯に生え変わるころになっても私はほとんど自然に抜けず、永久歯が内側から生え始め、慌てて歯医者に行くことになる。注射をして乳歯を抜く。そうなったら歯並びもひどいものだ。今なら間違いなく矯正をしているだろう。昭和40年代、1本の歯に5万円……。両親はそのままにした。私はそれを不満に思っていないが、歯並びの悪さはコンプレックスだ。笑うときには必ず口元を手で隠す癖がある。
そんなこんなで、私は歯医者嫌いとなった。大人になってからは、痛くならなければ行かない。ひどくなってやっと予約を入れる。予約しただけで、すっごく大きな仕事を成し遂げた気分になり、自分をほめる。早めに見てもらえば、簡単に終わると分かっていてもそれができない。
そんな風に歯医者と付き合ってきた私は、我が子らにはできる限り虫歯にならないように注意した。次男は歯磨きが大嫌いで、泣きわめいていたが、私は彼を仰向けに寝かせ、両足で彼の両腕を押さえつけてまで歯磨きをした。そのかいあってか、3人とも幼稚園では「きれいな歯で賞」をいただいた。
さて、長男が3歳の歯科検診で、先生から
「とてもきれいな歯をなさっていますが、お母さまはどうですか?」
と聞かれた。私は即座に
「ボロボロです」
と答えた。もちろん、口元を手で隠して。
「残念ですね。3歳の子とお母さんの親子できれいな歯のコンテストがあるので、推薦しようと思ったのですよ」
とのことだった。
後日、父にその話をした。すると父は
「きれいな歯の親ならば、子どもはきれいな歯のはず。ボロボロの母ときれいな歯の子どもこそ、表彰されてよい。それだけ親が努力して子育てしている証拠だよ」
と言った。そこは「ボロボロの母」じゃなくて「ボロボロの歯の母」だと突っ込みを入れたかった。「あなたの娘です……」けれども、褒められた気がして、妙にうれしかった。
そういえば、近所のママ友さん、生まれて35年間歯医者に行ったことがなく、5歳のお子さんも歯磨きしたことがないけど、虫歯がないという。そしたら、最近の研究で、虫歯は虫歯菌によっておこるというのだ。生後すぐの赤ちゃんには虫歯菌がなくて、親がスプーンや箸を共用したり、チューしたりするから、それがうつるんだって。
あの私の努力はいったい何だったのだろう?
