初めての海外旅行は、ぜいたくにもヨーロッパへの卒業旅行だった。仲良しのとこちゃんと二人で。

 

 伝説の美術品の数々、エーゲ海の青さ、そして歴史を感じさせる建築物には心惹かれた。ところが、今になって私が最も心に残っているのは、スペイン広場での一コマである。そこでは多くのアーティストさんが階段に直接腰を下ろし、絵を描いていた。観光客を相手に似顔絵を描いている人もいた。私たちは、一番のイケメンに描いてもらうことにした。と言ってもイタリア人男性は全員イケメンなのよ。びっくりするほど。私たちは、絵描きさんを決めるのにだいぶ時間を割いたと思う。

 

 描いてもらった絵は、めちゃくちゃデフォルメされていて、私たちは泣き笑いするしかなかった。

 

 その後、とこちゃんの才能が発揮される。英語も通じない彼に拙い英語で話しかけ、半ば強引にスケッチブックと鉛筆を受け取り、彼女は彼の似顔絵を描き始めた。とこちゃんは大学でも漫研に所属していて、絵が得意。教育実習の終わりには、受け持ったクラスの生徒全員に似顔絵を贈ったほど。

 

 日本人(と認識されていたかどうかは分からないが)の若い女の子が何か面白いことをやっている……と、どんどん周りに人が集まってきた。皆それをのぞき込む。私は快感だった。自分がやっているわけじゃないけど、彼女の絵が上手なんだもの。彼にそっくりなんだもの。最後はウインクまでさせて、星マークを加えちゃった。

 

 その後、彼が私たち二人にお茶をおごってくれた。小さなカフェでいただいた紅茶の美味しかったこと!あんな整った顔の男性とお茶したなんて、後にも先にもあの1回だけ。

 

 最近は景色だったり食べ物だったり、SNS映えのする映像が情報として出回る。旅行は、それらが先にありき、となってはいないか?それらを求めて出かけてはいないか?私も然り。同じものを見ても感じ方は人それぞれだから、それらはその人にとって唯一のものにはなる。だから、それも素敵なことだと思う。が、本当は何かを求めて行くのではなくて、行った先でたまたま出会った人や風景や味を楽しむことが、国内外問わず、旅行の醍醐味なのかもしれない。

旅の思い出を語りたい

 

 

 

 

 

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