だいぶ前のことになるが、我が家にもオレオレ電話がかかってきた。以前から、絶対に騙されない自信があったのに、いきなり聞こえてきた泣き声についつい「航?」

と次男の名前をばらしてしまった。次男は当時高校生。彼の泣き声など、いつから聞いてないだろう?それなのにいつまでたっても、母は「末っ子」という思いが抜けないんだな。そして咄嗟にこんなことになるんだろうな。

「うん、ワタル」

当たり前だが、そう応えがあった。

 

 なんちゃってワタルの話によると「自分のバッグが他人に当たり、その人が倒れて頭を打ち、意識がない。その仲間が医者代をよこせと言っている」だって。落ち着いて考えればあり得ない話。そうなったら、まずは救急車を呼ぶはず。

 

 偶然なのか、細かいリサーチの結果なのか、次男は高校球児、あのでっかい黒いバッグは確かに人を倒す威力十分だ。

 

 しかし、その間冷静になった私、力はここから発揮される。日頃のちょっぴりのうっぷんを晴らすべく、私は怒鳴る。

「声が違うよね?」

「……」

「授業はどうしたのよ!」

「休講になった」

「部活は?」

「休みだって昨日言ったじゃん」

「そんなこと聞いてない!授業もさぼり、部活もさぼり、そんなところでフラフラしているからそういうことになるの!声がおかしいし!」(そんなところがどんなところか聞いてもいないが)

「殴られて前歯が折れた……」

私は笑いをこらえつつ応戦する。

「おまわりさんを呼びなさい。逃げも隠れもしません、と言って学生証を見せなさい。そしてアンタはすぐに帰ってきなさい。あ、折れた歯はくっつくかもしれないから持って帰ってきなさい!」 

私は彼が生まれて15年、今まで彼を「アンタ」と呼んだことはありません。

 

 そこでやっと電話が切られた。それにしても単なるいたずらだったのだろうか?私の怒りに付き合う気の長い詐欺である。その後も還付金詐欺など、数回の電話があった。

 

 ある時、おまわりさんに何とか捕まえたいと話したら、

「そこは警察がやりますから、皆さんはそういう危険なことはせずに、ただ騙されないようにしてください」

って言われてしまった。

 

 主婦がオレオレ詐欺逮捕に貢献、なんていうニュースを期待した私は、ちょっとがっかり。