商売を営んでいた我が家、私は小学生の頃、よくおつかいを頼まれた。当時は面倒だなあ、と思っていた。けれども今思い起こすと、楽しい思い出となっている。今の小学生のおつかいは、つまらないだろうな、と思う。せいぜい、セルフレジの操作が楽しいくらいかな、って。けど、彼ら彼女らにとっては「何か問題でも?」ってなところかな。

 

 しっかり記憶にあるおつかいは2つ。1つ目はお肉屋さん。そうそう、おつかいを頼まれる前には決まって母からメモ用紙と鉛筆を渡される。買うものを書くのだ。忙しそうに動いている母の口から出る言葉を書き留める。「アイビキ200グラム」とか「ブタコマ300グラム」とか、時々「コロッケ6個」とかあって、その時はテンションが上がる。

 

 岩瀬精肉店のおばさんは、まず大きな冷蔵庫から大きな蓋つきの入れ物を出してくる。その中からすでに形の出来上がっているコロッケのモト(小判型に形作られたお肉・玉ねぎの入った茹でられたジャガイモだ)を出す。そして、銀色のこれまた大きなテーブルの引き出しを開ける。そこには白いお粉が入っている。コロッケのモトに上手にまぶす。卵にくぐらせ、今度は別の引き出しを開け、パン粉を付ける。最後に軽く手のひらで抑える。そして油に投入。

 

 私はその作業がやりたくてたまらなかった。コロッケってこんな風に出来上がるんだ……。いつかおばさんが「beachanもやってみる?」って聞いてくれるんじゃないかと期待したんだけれど、叶わなかった。当たり前だわ、商品をよその小学生に任せられない。

 

 もう一つのお店はお豆腐屋さんだ。当時は意味が分からなかった「絹」とか「木綿」とかを母から指示されて、かならずお鍋を渡される。その中にお豆腐を入れてもらうのだ。おばさんは水が入ったタイル張りの風呂の浴槽のような中から大きなお豆腐をそっと手のひらですくい、包丁で切る。この作業もやってみたかったなあ。

 

 ある時は珍しく母と二人でお豆腐屋さんに行った。

「奥さん、毎日毎日冷たいお水をさわって、手が荒れないの?」

と母が聞いた。するとおばさんは

「揚げ物をするでしょ?その油のせいなのかしらねえ。おかげさまでつるつるなのよ」

 

 私はこの時、薄いお豆腐を油で揚げると「油揚げ」ができると知った。(正確には油揚げ専用のお豆腐があるらしいけど、基本は同じ)小学校低学年のことだ。今、スーパーでお買い物をしてもこんなことわからない。そんなところも私が昭和が好きな理由の一つかもしれない。

 

 余談ですが、私とほぼ同い年のわが夫、油揚げのこと、50歳を過ぎてから知りました。私が教えたらびっくりしてた。