高校に入学して仲良しになったグループの中にキッコという女の子がいた。彼女のお父さんは都立高校の先生だった。だから時々面白い話を聞くことができる。キッコのお父さんは国語の先生で、今までに何度も高校入試に関わり、採点もなさったらしい。

 

 当時の都立高校入試の国語では、最後の大問で、何かのテーマについての小論文を書かされた。400字程度だったかなあ?「自由について」とか「自然について」とか、今思うと抽象的で難しい。ある年のテーマは「漫画について」だった。キッコのお父さんは多くの15歳の小論文を読んだ。ほとんどの受験生のものが

「漫画は大人にとって良くないイメージがあると思うが、決してそんなことはない。漫画から学ぶことはたくさんある」

ってな内容だったらしい。そうそう、今では大人も漫画を読むけれど、あの頃は漫画といえば大体が子どものものだった。そして、私もその年の受験生だったら、同じような文章を書いていたことだろう。ところが、たった一人、ある一つの作品がいかに素晴らしいものであるかをとうとうと論じていたものがあったそうだ。『カムイ伝』それに心動かされ、興味をもった彼女のお父さんは、その日に本屋さんで全巻買い揃え、一気に読んだそうだ。

「20巻以上あったから持って帰ってくるのは相当重たかったと思う」

とキッコは言っていた。

 

 小中学校の頃、私は目立つことが嫌いだった。人と違うことはしたくなかった。けれど、この話を聞いたあと、私はちょっと人とは違った視点で物事を見てみようとか、今までと異なるやり方を取り入れてみようと思うようになった。さらにそれが人を驚かせたり楽しませたりできたら嬉しいと思うようになった。人と同じじゃなくて、人と違うことは誇らしいことなんだと思わせてくれた話……。だから私はこの話が忘れられない。

 

 そして、あんなに強く誓った「カムイ伝読破」なのに、未だにその誓いは果たされていない……。