自動運転技術は、ここ数年で実験段階から実用化へと大きな一歩を踏み出しました。過疎地での無人移動サービスや特定条件下での自動運行など、レベル4の社会実装が始まりつつあります。しかし、技術の進化に伴って必ず突き当たるのが、「自動運転中にもし事故が起きたら、一体だれの責任になるのか?」という問いです。
現在、自家用車で普及している先進運転支援システム(ADAS)の多くはレベル2であり、運転の主体はドライバー本人です。一方で、緊急時のみ人間が交代するレベル3や、特定の条件下でシステムがすべてを担うレベル4になると、責任の境目は一気に曖昧になります。
国による法整備のアプローチにも違いが見られます。日本ではレベル3や4の走行を認める法改正がいち早く進められ、従来の制度をベースとしつつも、ドライバーが関与しないレベル4では運行事業者やシステムメーカー側の製造物責任(PL法)を考慮する議論が進んでいます。一方、アメリカではWaymoなどのロボタクシー走行が進む一方で、人身事故時のメーカー責任追及や安全懸念から、州当局が運行停止命令を出すなどの摩擦も生じています。
こうした変化に対し、保険業界もルールをアップデートしています。では、実際の事故では保険はどのように適用されているのでしょうか。
現状の過渡期における実例としては、被害者救済を最優先する運用が取られています。例えば、レベル2の運転支援作動中にドライバーの不注意で追突事故が起きた場合や、2021年の東京パラリンピック選手村で起きた自動運転バスの接触事故などのように人間側に監視・操作義務があるケースでは、従来のドライバー本人の自動車保険(対人・対物賠償)から保険金が支払われています。
一方で、システムが運転主体となるレベル3以上を見据え、主要な損害保険会社では自動運転システム起因の事故でも、まずは既存の自賠責や任意保険から迅速に被害者へ保険金を支払うという取り決めが進んでいます。ドライバーに過失がないシステム障害やハッキングによる事故であれば、保険を使っても等級が下がらない特約などが適用され、保険会社が後から自動車メーカーへ損害賠償を求める仕組みが整えられつつあります。
しかし、ユーザー側の意識には不安が残ります。システムを信じていたのに、緊急時のコンマ何秒かで交代を求められ(レベル3)、対応できなければ人間の責任にされるのは納得がいかないという声や、責任の所在が複雑ならまだ乗りたくないと考える人も少なくありません。
今後は完全自動運転(レベル5)へ向けて、責任の主体は個人からメーカー・システム開発者へとシフトしていきます。過渡期である今こそ、事故原因を正確に記録・解析するデータ(EDR等)の整備と、社会全体が納得できる明確な責任ルールの構築が求められているのです。
