皆さんはカスピ海をご存じでしょうか。ヨーグルトやキャビアの原料となるチョウザメの生息地としても有名です。現在そのカスピ海の水位低下が加速していて、危機的な状況になりつつあります。
カスピ海は地球最大の内海であり湖で、その大きさはなんと日本の国土面積とほぼ同じ大きさです。湾曲した海岸線は約6400キロにもなり、カザフスタン、イラン、アゼルバイジャン、ロシア、トルクメニスタンの5ヶ国にまたがっています。
これらの国々では、漁業、農業、観光、飲料水、そして石油とガスの埋蔵量をカスピ海に依存しています。またカスピ海はこの乾燥地域の気候を調整し、中央アジアに降雨と湿気をもたらす役割も担っています。
ところがカスピ海は、気候変動による気温上昇と、流入河川へのダム建設や過剰取水などの人為的要因により、1990年代半ばから急速に縮小・干上がりが進行しているのだそうです。一部の専門家は、2100年までに水位が最大約21メートル低下し、浅瀬が完全に消滅すると予測していて、カスピ海が取り返しのつかないところまで追い込まれているとの懸念を示しています。
カスピ海の未来がどうなるかは、近くのアラル海を見ればすぐに分かると言います。カザフスタンとウズベキスタンにまたがるアラル海(大アラル海と小アラル海があります)は、かつて世界最大規模の湖でした。ところが旧ソ連時代の1960年代以降、綿花栽培のための大規模な灌漑で川の水が激減し、一時期は元の面積の10分の1以下にまで干上がりました。このような人間の活動と深刻化する気候危機によってアラル海の自然環境バランスは壊滅し、現在では大アラル海はほぼ消滅してしまいました。そして生態系の破綻や漁業の壊滅、塩混じりの砂嵐による健康被害を引き起こし、「20世紀最大の環境破壊」と呼ばれています。
しかし人間も黙っているだけではありません。小アラル海はカザフスタン政府などが建設した コクアラル・ダム によって水位が回復し、魚類も戻って漁業が復活しています。干上がった湖底からの塩分の飛散を防ぐため、塩害に強い植物(サクサウールなど)の植林活動も行われており、水を大量に消費する綿花栽培から、環境負荷の少ない作物への転換や、効率的な灌漑(かんがい)システムへの設備投資が進められています。
カスピ海の未来は今まさに岐路に立たされています。人間の活動が環境を破壊する原因になる一方で、小アラル海のように正しい選択と技術投資によって自然を蘇らせることも可能です。一国の利益を超え、カスピ海周辺国そして国際社会全体が地球規模の気候危機に本気で向き合えば、カスピ海が歩むべき道は決して絶望だけではありません。地球環境をどうするのか、アラル海での経験を再生への知恵として活かすのかどうかは私たちの行動にかかっているのです。
