「はろりん、たのしかったねぇ」
灯りが消えて、おふとんに入ってもなお、くすくすと楽しそうに笑うじゅーんと、
「みんなをこわがらせてやりましたよ」
ふんふんと得意げに、じゅーんの隣で満足そうにふわりとまつ毛を閉じるにぃの。
・・・・・・さてさて、それは10/31のこと。
五人兄弟の住む街の商店街も、オレンジ色のカボチャや黒い蝙蝠、白いオバケや骸骨といった、カラフルでありつつもちょっぴり不気味なオブジェが沢山飾られて。
『ハロウィンキャンペーン』と称してお買い得な品を軒先に並べたりと、結構賑わっているようですよ。
さて、五人兄弟の家では───
「さとしくん、な~につくってるのぉ?」
「かぼちゃですよねぇ?」
長男のさとが、先刻からダイニングテーブルで何か作業をしています。
その様子が気になった末の双子のにぃのとじゅーんが、リビングのテレビの前からキッチンに駆けてきて、椅子にそれぞれうんしょとよじ登って、さとの手元を覗きこみました。
「ンフフ、な~んだ。もうちょい暗くなると、今日はコレが必要になんだよねぇ~」
「くらくなると?」
「ひつよう?」
双子が同時に首を傾げました。
「兄さん、出来たよ!」
部屋から出てきた次男のしょぉが、両手に何かを抱えています。
「よぉし、こっちも出来たぞー、まぁ、お待たせ。コレも鍋に入れてくれ」
「はぁい~」
まぁもキッチンから出てきて、ボウルに入ったかぼちゃの中身を受け取りました。
「しょぉさん、それなぁに?」
「まぁちゃん、かぼちゃどうするの?」
双子に同時に聞かれた次男と三男坊は顔を見合せ、
くふふと笑って、せーのって
「ハロウィンのお楽しみだよ♪♪」
声を合わせました。
「はろりん?」
「おたのしみ?」
「そ、コレはまぁが美味しいパンプキンスープにしてくれるぞぉ~」
「出来上がったら、双子ちゃんがお味見係やってね!」
「わぁぃ!すーぷ!!」
「そしてこちらは、変身セットです」
「へんしんせっと!!」
しょぉが双子を鏡の前に呼んで、ふたりにふんわりと白いシーツを被せました。
ちょうど、双子たちをすっぽり包むサイズで、お目目とお口が出るように穴が空いています。
「なぁにこれぇ?」
「なぁになぁに~?」
「おばけちゃんだよ」
「わぁ!じゅーんちゃんとにぃのちゃん、おばけちゃんだって!」
「おばけちゃんのふたごですね!わたしたち、こわいですかね?」
にぃのとじゅーんは、ダイニングテーブルのさとに駆け寄って、
「おばけだぞぉ~!!」
思いっきり、低い声を出しました。
「おぉ、おばけの双子が来た!こえぇな!」
さとはにこにこと、
「今日はハロウィンだから、『トリックオアトリート!』って誰かに言ってみな。美味しい いいもんが貰えるかもよ」
「とりっくあー?」
「とりーと?」
双子はキッチンのまぁの所に飛んで行きました
「まぁちゃん、とりっくあー」
「とりーと!」
「わぁ、かわいいおばけの双子ちゃんが来た!
ちょうど出来た所だよ。……さぁどうぞ」
まぁは双子のちっちゃなお椀に、いい匂いのしているお鍋の中のスープを少しだけすくって、ふぅふぅ冷まして、渡しました。
「ありがと!」
「いただきまぁす」
「ん~!」
「ん~!」
「おいしい!!」
「くふふっ、それは良かったぁ~」
嬉しそうな、笑顔満開のまぁ。
「んん〜、いい匂い!もうスープ完成したんだね?
じゃぁ、まぁもこっちにおいで」
しょぉに手を引かれ、まぁも鏡の前に。
発表会などに着る用の、黒いズボンと白いシャツに着替えて、首元にはネクタイの代わりに、しょぉが黒いリボンをちょうちょに結びました。
髪を後ろに撫で付け、そして、マントを背中に羽織ったら…
「ドラキュラだ!」
まぁは鏡の中の自分に、まん丸な目をして言いました。
「カッコイイよ」
満足気に笑うしょぉ。
「このマント、ギザギザしてて、表が黒で裏が赤なんだね、すごい」
「これは昔、俺がまぁくらいの時に使ってた物だよ」
「しょぉちゃんの?」
「そ、よく似合ってる。まぁもおばけちゃんは卒業だな」
「そっか、フフ、双子のおばけちゃんがいるもんね!」
「今年は双子がデビューするから、仮装はまぁと3人だね。お菓子いっぱい貰えるかな。さ、そろそろ」
「うん!」
二人がリビングに戻ると、さとは作っていたかぼちゃの中に、ちょうどキャンドルを入れ、火を灯したところでした。
「ほい、見てみぃ?ジャック・オ・ランタンだ!
どうだ、怖いだろ~」
不気味に笑う、かぼちゃのランタンですが、弟達は、
「こ、こわくないよ…じゅーんちゃんたちおばけちゃんだもん」
「ふたごのおばけちゃんは、つよいんですよ…」
「そ、オレたち強くて怖くてカッコイイよっ!」
そう胸を張ったまぁに、双子達が気が付きました。
「あっ、まぁちゃん、まんとだ!」
「まんと、ひらひら」
いいないいなって、まぁのマントを引っ張る双子に、しょぉは言いました。
「ハハッ、マントは、兄さんのしてたのもあるから、ちゃぁんと2着あるからね。
でも、まぁくらい大きくなってからかな?だって、まだまだ引きずるから、せっかくのマントがボロボロになっちゃうだろ?
おばけちゃんもドラキュラも、ジャック・オ・ランタンも、みんなスゲー怖くて、カッコイイぞ〜。
兄さん、そろそろ商店街行く?」
「ん。お菓子入れる袋持ってな。
おばけちゃんもドラキュラも、『トリックオアトリート』って元気良く言えるかな?」
言えるよ!!って歓声を上げる弟たち。
外は黄昏時。
とろりとしたはちみつのように輝く優しい世界。
まぁを先頭に双子が続いて、ジャック・オ・ランタンを掲げたさとと、しょぉが弟たちの後ろを守るように歩きます。
賑やかに笑いながら足取りも弾んで、商店街の入り口に着きました。
「行くよっ」
まぁと双子が目を交わし、頷いて。
「トリックオアトリート!」
元気良く、お店の人に言いました。
「まぁまぁ、可愛らし・・・いえ、怖い怖い、キャンディーあげるからイタズラしないでね」
「お!末っ子ちゃんたちも来たな!うちの自慢のせんべいだ」
「まぁくん、シュッとしたわねぇ!お兄ちゃんたち譲りね。はい、お茶屋の抹茶羊羹よ」
「あら、いらっしゃい。おぉ、怖い怖い!
待ってね、不揃いだけど味は同じだから。コロッケ包んであげる」
こんな調子で、お店で作った時に出る、包装がずれたキャンディーや、割れたお煎餅、羊羹の端っこなどを頂いて。
中には、長男や次男にも『持ってって』って渡してくれるお店もあって。
手に提げたお菓子袋やポケットは、美味しいものたちで満杯になりました。
「はろりんてたのしいね!!」
ほくほく、笑顔の弟たち。
でもそろそろ、夜の闇が世界を支配する時間です。
「そろそろ帰るか」
ホントのオバケに、弟たちが攫われないようにな。
さとは心の中で呟いて、
案の定『もうちょっと』って渋る大事な弟たちに、
「だけど、腹減ったろ。まぁの作ってくれたパンプキンスープに、実は冷蔵庫にパンプキンプリンを冷やしてる」
「わぁ!ぷりん!」
「たべたい!」
「オレも!」
「俺も!」
次男坊まで、一緒になって。
さとはクスリと笑うと、
「じゃぁ、家に帰るか」
みんなで手を繋いで、そして又賑やかに笑いながら、家路へと急ぎました。
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