企業が差別化戦略を成功させるための3条件を挙げてみます。
デンマークのバング&オルフセンのデザイン力
第1に、賢明な企業は各アプローチを組み合わせています。たとえば、デンマークのバング&オルフセン(バング・アンド・オルフセン)は優れたデザイン力によって、低コストの電子機器メーカーとの競争を優位に進めています。バング・アンド・オルフセンのデザイン・アプローチが効果を発揮するのは、たえず新製品を導入し、高級ブランドとしてのイメージの醸成に努め、スタイリッシュな店舗運営に時間と資金を投入しているからにほかなりません。
第2に、製品やサービスの代金が、ベネフィットに見合っていると顧客に納得させなければなりません。たとえばジレットは、「深ぞり」というコンセプトが効果的であることに気づき、この20年間で〈アトラ〉〈アトラプラス〉(日本の〈アクタスプラス〉)〈センサースリー〉〈センサーエクセル〉〈マッハスリー〉〈マッハスリーターボ〉〈セントロ〉という高価なグルーミング製品を展開してきました。
ジレットの「デュラセル」
アメリカのジレットは、アルカリ乾電池〈デュラセル〉の販売でも同様の戦略を採用しました。ところが消費者の多くが、長期間の寿命がウリのハイパワー製品のように、一定水準を超える製品の購入をためらいます。なぜなら、ハイパワー・アルカリ乾電池〈デュラセルウルトラ〉の高性能と長い商品寿命を実感できないからです。
エネルガイザー・ホールディングスとレイオバック(スペクラム・ブランズの傘下)が同じ価格帯の新型電池を上市したことで、〈デュラセルウルトラ〉の優位性は打ち消されました。ジレットは結局、〈デュラセル〉の差別化戦略を諦めざるをえませんでした。
多くの消費者たちに、新しいベネフィットという付加価値を認めてもらい、それに見合った対価を求めるのは難しいのです。とはいえ、アメリカの大手ディスカウント・ストアのターゲット、ドラッグストア・チェーン最大手のウォルグリーンズなどの成功が示すように、少額のプレミアムを上乗せして、より優れたサービスやベネフィットを提供するならば、それは強力な防御となります。
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ターゲットとウォルグリーンズ
アメリカのターゲットは、建築家のマイケル・グレイブスやファッション・デザイナーのアイザック・ミズラヒなどのデザインによるキッチン用品や衣料品を廉価で提供しています。ターゲットは、ウォルマートの商品よりも品質やデザインに優れた商品を販売し、価格はウォルマートより若干高めに設定しています。
ウォルグリーンズは、ショッピング・センターのそばに出店する、商品をドライブスルーで受け取れるほか、レジの待ち時間の短縮、買い物がしやすい店内レイアウトなど、利用者の利便性を追求しています。こうして両社は、ウォルマートとの競争を優位に進めてきました。
一方、たいていの既存企業は、新たなベネフィットを提供するために莫大なコストをかけています。その結果、消費者の大半が敬遠するような高額のプレミアム価格を設定せざるをえません。
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第3の条件は至極単純で、差別化するに当たってはベネフィットとコストをバランスさせるというものです。ただし時間がかかります。
ヒューレット・パッカード(HP)
たとえば、ヒューレット・パッカード(HP)は経営改革に長い時間を費やしたとはいえ、ついにPC事業を立て直し、デルのコスト優位性を20%から10%に引き下げました。PCの平均価格が下がり、いまや両社の価格差はかなり縮小した。迅速な納品のほか、店頭で製品を試用したうえで選択できることに魅力を感じる消費者は、HPのPCを購入しています。
しかし、消費者が新しいベネフィットを受け入れない場合、低コスト企業に市場の一部を譲り渡さざるをえなくなります。
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ブリティッシュ・エアウェイズの格安航空会社
イギリスのブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は、イージージェットやライアンエアなどの格安航空会社が台頭した当初、何の対策も打ちませんでした。後年、ゴー航空という格安航空会社を設立しましたが、2002年にイージージェットに売却しました。
英国ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)はサービスの差別化を模索しましたが、結局、格安航空会社のいない長距離路線を主力事業に定めました。BAは、短距離路線では格安航空会社のベスト・プラクティスに倣い、eチケットの購入を顧客に勧めるなどして一定のシェアを維持しています。また、格安航空会社と同価格のエコノミー・クラスを少数ながら全便に用意しました。
このような努力のかいもあって、短距離便の旅客の一部は、便利で人気の高いヒースロー空港に離発着枠を持っているBAを利用し始めました。とはいえ、ヨーロッパ路線の座席数を奪われたことは紛れもない事実であり、BAは格安航空会社の勝利を認めています。
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デル
格安企業と共存するという戦略は、最初のうちは効果がありますが、低コストの代替品を利用した顧客は、そちらに乗り換えてしまいます。航空業界やPC業界、小売業界では、より少ないベネフィットに、より低い価格を支払うセグメントが急拡大しているのです。
これはウォルマートの利用客のことではありません。たとえば、1990年代初頭、デルとサウスウエストの市場シェアは約3%だったが、2006年には30%に成長しました。その結果、既存企業は縮小した市場での競争を余儀なくされ、少数の消費者に高価格を要求せざるをえず、巨額の間接費を抱えながら売上高の減少を食い止めなければなりませんでした。
これは、最終利益に大きな打撃を与えます。ライバルと合従連衡すればどうにか倒産は回避できるでしょうが、いまや多くが知っているように、M&Aあらゆる問題を解決できる万能薬ではありません。
中島徳至
※参考:
http://www.best-business.jp/