マザー・イン・ザ・ハンティング・グラウンド感想3 | 木島亭年代記

木島亭年代記

東北在住。
最近は映画も見てなきゃ本も読んでない。
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読み終わってから時間がたったので記憶が曖昧である。ここんとこそういうことが多い。観たもの読んだものを端から忘れていく。これが老化か。という訳で、覚え違いがあったらすいません。


物語は、端的に言えば少年が問題のある母親と向き合い、立ち上がって、成長していくと言うことになる。ジャンルとしては青春もののようにも見えるが、いわゆる青春する様な話ではない。そこにはその手の作品が大半要素として持っている恋愛すらない。代わりにあるのは、様々な登場人物がそれぞれ抱え込んだ複雑な問題であり、支配的なものによる抑圧に苦しんでいる様だ。ちょっと過剰に要素として社会的トピックスを盛り込みすぎとさえ思える。主人公の少年は、野蛮な母親によって、常に緊張を強いられている。もっとも母親自体が主人公にそれほど執着があるようには見えないが。野蛮な母親は次から次に若い女の子を食い物にする。性的な意味と精神的な意味で彼女は被害者をもてあそぶ。側で行われる蛮行に頭を抱える主人公。何しろ目下被害にあってる女子高生は自分のクラスメートなのだ。愚かで純粋な、そして繊細で不幸な彼女は、えげつない捕食者にいいように洗脳されている。主人公はそれが耐えられない。姉はとっくに忌まわしき家から脱出していて、弁護士の恋人がいる。恋人は良識のある素晴らしい人間だ。主人公は精神的に病んでしまい、入院し退院と同時に姉とその恋人の基に匿われる。が、母親の方は息子に興味を示さず、自分の獲物であるクラスメートの女の子に執着する。特殊な力を使い、クラスメートの女の子を連れ去る母親。そこで今まで逃げ回っていた主人公は母親と対峙することを、あるいは自分と向き合うことを選ぶ。クラスメートを救うために、彼はNPO法人を運営している姉の恋人の友人犬塚らを交えて、立ち向かう準備をする。ここで彼が異性としてクラスメートを救いたいという思いがあるようにも見えるが、彼はアセクシャルであると語られる。つまりそこには性的な動機はない。単純に母親というこの世界の悪意を具現化したような化け物から、餌食になった人間を救いだしたいという思いだけが動機だ。もしかしたら、母親に対する責任を感じているのかもしれない。メンバーは、犬塚の父親を頼って(犬塚は犬塚で長年父親からモラルハラスメントを受けている。父親はそれを理解できずにいたが、この件を気にそれを理解し反省する)、化け物を迎撃する。いくらかの犠牲を払って、精神的、肉体的にクラスメートを救いだし、主人公は母親と直接対峙し勝利する。呪縛から解放された主人公とクラスメートはそのあと一度だけ会う。二人とも、無傷とはとても言えないが、這い上がっていっている。傷つけられた人間はそれが解決されたとしても、そのあとも必死にやってかないといけない。生きるのはきつく、生きていくにはタフさが必要なのだ。そして主人公の基には一通の差出人不明の絵葉書が届くのだが、そこには不穏さが残る。
最後にお話と関係ない暴行事件のニュースが書かれる。今こうやって私が小説を読んでる間にも理不尽な暴力は振るわれていて、そこには被害者がいる。被害者の傷は簡単にはいえないだろう。

物語は傷つけられたものたちへの眼差しが優しい。その上で理不尽な世界に立ち向かう姿を描く。

無料の小説だが、読みごたえがあり、とても面白かった。