フィリップ・ド・ブロカ「まぼろしの市街戦(1967)」 | 木島亭年代記

木島亭年代記

東北在住。
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好きな映画は何?と尋ねられると多くの映画ファンは返答に困窮する。理由は簡単で、一番を選べないからだ。だってあれも良いし、これも良いし、それに順位をつけろと言われてもなと思う。そして往々にしてそう言う面倒くさい質問をするのはたいていあまり映画に興味のない人で、下手に映画の名前を言うと、「知らないな。どんな映画なの?」という質問をしてくる。面倒くさいことこの上ない。そしてしまいには「お勧めの映画は何?」と言う展開になる。「お前に勧める映画?だいたい俺お前の趣味知らねぇし」って内心思いながら、あたりさわりのない映画を紹介する。こう見えても結構普通の当たり前の大ヒット作も好きなのでそれなりに紹介できるのである。だが、この手の輩はさすがでさらに余計なひと言を付け加える。「へーそう言うのが好きなんだね」というやつだ。「貴様にその映画何が分るっってんだ!」ともちろんイライラする訳だが、まあこういうのはオタクやマニアにありがちな憤りで、おそらくそこには“自分の愛しているもの”=“絶対的な価値があるもの”という強い思い込みがあり、その世界に詳しい自分に酔っていたところに冷や水をぶっかけられたが故のものであることは否定できない。世間一般の価値観とのズレは、無邪気な外の世界の人には他愛のない――否、有体に言うとくだらないものにすぎないのである。そして、それでも我々はその無意味でくだらなく、他愛のない物への執着を捨てきれないし、どんなに残酷な無邪気さの刃にさらされても抜け出る気はないし、表面的にはそちらの世界の言い分を「正論だ!」と装っても、心の底では「とはいえ、やっぱりこちらの世界の方がその一般とやらの価値観よりより優れているのである」という思いをぬぐえないどころかますます硬化させていくのであった。我々は外から見れば“憐れな道化”なのかもしれないけれども、正直そんなことは知ったことじゃないのである。


話は大分ずれてが、「まぼろしの市街戦」である。1966年の制作されたこのフランス映画は、公開当時、興行・批評面の両方で成功せず、ベトナム戦争下のアメリカで反戦を唱える若者の間で評価されたという異色の作品で、いわゆる一つのカルト映画らしい。もはやカルト映画なんて言葉自体は本来持つような価値はないのだが、こうやってDVDが出るのだから感謝せねばなるまい。



寓話であると同時に美しくファニーなコメディで、ある種の本質を捉えている。爆弾に一人右往左往する主人公は狂人たちを当初見下している。だが正常な人間たちの行いを目の当たりにして、本当は我々の方が狂ってるのかもしれないということに気がついて行く。劇中の狂人たちは、実は状況はきちんと理解している。さっきまで精神病院にいたくせに――と主人公になじられムッとしたり、そろそろ戻るかと精神病院に帰って言ったり、ずばり主人公に「頭がおかしいのか」と言ってみたりと、案外まともである。

主役を演じたアラン・ベイツは道化役を好演している。普通であるがゆえに世界に振り回される。ヒロイン役のG・ビヨルドの可愛さといったらない。綱渡りのシーンは息をのむほど幻想的だ。他のわき役たちもキャラが立っていて素晴らしい。


久しぶりに再建したがやはり素晴らしい映画だったし、個人的ベスト1は不動である。


(以下粗筋。ネタバレありの為未見の方注意。)


時は第一次世界大戦中、パリ北方の小さな町が舞台である。撤退するドイツ軍は街に時限爆弾を仕掛け、攻めてきたイギリス軍もろとも吹っ飛ばそうと計画する。しかし、これを知った村人の一人でドイツ軍の隊長の理髪師は慌てて帰宅し村人たちに避難勧告を出すと同時に、イギリス軍へモールス信号を送った。男は実はレジスタンスであり、コードネームを“サバは芋好き”という。知らせをけるイギリス軍だったが、“サバは芋好き”が電報の途中で銃殺されてしまったために、内容が暗号めいたものになってしまった。分ったことと言えば真夜中に爆弾が爆発するということくらいのものだ。そこでイギリス軍の隊長であるバイベンブルック大佐(A・セリ)は伝令兵で伝書鳩係のプランピック(A・ベイツ)を村に派遣し、爆弾を見つけて撤去せよと命じる。勿論爆弾に関しては点で素人であるプランピックは断ろうとする。


プランピック「ほかに適任者いるのでは?」


大佐「二人も殺せない」


断われる訳もなく、単独で村に潜入することになる。いっぽう肝心の町は、住民の大半が避難していてもぬけの殻といった状態だ。残されたのはサーカスの動物――例えばライオン、クマ、馬、ラクダと、精神病院の狂人だけだった。彼らにとっては外の世界の状態になってどうでもいいのである。潜入したプランピックは早速いくらか残っていたドイツ軍の見つかり追いかけまわされる。逃げ込んだ先は例の精神病院で、トランプをしている二人の間に入り、トランプを始める。追いかけてきたドイツ軍は彼らに名前を問うと、それぞれ奇妙な答えをする。それにあわせてプランピックも「ハートのキング」となのる。ドイツ軍は狂人たちにかかわってはいられないと外を探しに行く。


ドイツ軍は鍵を閉めないでいったので結果として解放された狂人たちは、街へ出る。空家に入りこんでそれぞれの抱いている夢を実現するかのように服を着替えて、夢のような生活をはじめていた。ある狂人(J・C・ブリアリ)は公爵を名乗り、侯爵夫人と優雅に踊る。僧正(J・ギオマール)は寺院にむかい聖職者のコスチュームに着替える。エバ(M・プレール)はけばい化粧を施し、コクリコ(G・ビヨルド)たち、娘を集めて売春宿を開業する。将軍(P・ブラッスール)は幻想の軍隊を妄想した。プランケットは当初彼らが精神病院にた連中であったことに気づかず理容師(本物は先述のとおりすでに死んでいいる)に「サバは芋好き」としゃべりかけるものの相手にされない。そして四方八方を駆け巡り、空っぽになった精神病院に来てようやく事態を悟った。そしてこう決断した。「街を間違えた!」と。プランピックは伝書鳩を2羽飛ばせる。一つには「街が違う模様。クマとライオンがいるだけでサバと連絡とれず」、もう一つには「追伸 爆弾は消失セリ」。ところが、飛ばした鳩の一羽はドイツ軍に撃たれて墜落してしまう。ドイツ軍はその伝書鳩の伝言を見て唖然とする。なんしろ「爆弾は消失セリ」とあるのだ。一方でもう一羽は無事イギリス軍のもとにたどり着いた。その伝書を見た大佐は「あの男はイカれてた」と、新たに3人の兵士を送り込むことにする。


街では狂人たちが「ハートのキング」を祭り上げて大騒ぎしようとする。一方でそんなままごとにつきあっていられないプランピック。だが、狂人の一人の少女コクリコ(G・ビヨルド)に恋をする。茶番につき合っていると、ドイツ軍の偵察部隊がやってくる。爆弾を確認しにきたのだ。それを目撃したプランケットはまだ爆弾があることを知る。そしてついでにドイツ兵はプランケットに気がつく。プランケットをつかめようとするドイツ軍だが、狂人たちに装甲車を奪われ、てんてこまいになり、プランピックを放っておいてそのまま引き上げていく。一方で偵察に来たイギリス軍の3人はプランピックがトチ狂ったと思う。



プランピックは自分が王様であることを使って狂人たちを待ちの外へ避難させようと誘導するが、街の外へ一歩出ると誰も彼には続かない。


「外界との間には石の壁がある 」

「現実の世界は苦しいだけです」


死にたいなら勝手にしろ――とプランピックは思う。だが、街壁から見下ろす狂人たちをほっぽらかして彼は街を去ることはできない。彼は最後の数時間を皆と共に街で過ごす決心する。そしてコクリコとの甘い時間。そして最後の時間がやってくる。真夜中まであと3分。窓から時計台を眺める二人。


プランピック「死にたくない」

コクリコ「死ぬ時は誰も知らないわ」

プランピック「あと3分だ」

コクリコ「あと3分もあるわ」


そしてコクリコが言う。


「騎士が出てくるのをみてましょうか?」


何、騎士だって――プランピックはそこで爆弾の場所に気がついた。「サバは芋好き」が残した「騎士の鐘を合図に」は時計台の仕掛けのことだったのだ。0時になるとからくりで騎士が出てきて鐘を打つのだ。それが爆弾につながっていると踏んだプランピックは時計台に駆けより、爆弾を止める。


爆発を回避したプランピックは狂人たちとお祭り騒ぎに興じる。一方でイギリス軍はプランピックが爆発を回避したと知り、軍で街へ向かう。お祭り騒ぎのなか進軍してきたイギリス軍は狂人たちを普通の住人と解釈して歓待を受ける。説明しようとするがプランピックはしそびる。歓待を受けたイギリス軍は礼をかねて花火をぶち上げ、ダンスを披露する。


ドイツ軍はすごすごと作戦失敗に怒り狂いながら撤退するが、街からぶちあげる花火を爆弾が爆発したと勘違いして慌てて戻る。


そして夜が明け、進軍を進めるために準備を始めるイギリス軍。もちろんプランピックも軍に戻らねばならない。涙を流すコクリコ。


そしていざ出発という段になって狂人たちにとらえられ、椅子に縛られるプランピック。


そこへやってきたドイツ軍。


むかえうつイギリス軍。


両軍は激戦を展開。相撃ちで両方とも全滅する。横たわる死体の山。唖然とそこに立ちすくむプランピック。


それを見ていた狂人たちはプランピックにこう言う。


「たっぷり遊んだから帰ろう。王様も自分の世界に帰りな」


狂人たちは本物の狂気にうんざりして、もといた精神病院にもどっていく。


英雄として勲章をもらうプランピックだったが、進撃途上にある次の村の爆破を命じられる。


プランピックはある事に気がつく。はたしてどちらが正常でどちらが異常なのかということに。


ジープを降りたプランピックは次々と服を脱ぎ鳩を入れたかごだけ持って全裸で精神病院の前に立ち、ベルを鳴らす。

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