東京二期会オペラ劇場
モーツァルト/歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」K.588
指揮 クリスティアン・アルミンク
演出・衣裳 ロラン・ペリー
フィオルディリージ 種谷典子
ドラベッラ 藤井麻美
グリエルモ 宮下嘉彦
フェランド 糸賀修平
デスピーナ 九嶋香奈枝
ドン・アルフォンソ 河野鉄平
管弦楽 新日本フィルハーモニー交響楽団
東京二期会の公演、今回は新国立劇場ということで、舞台転換もスムーズで照明も鮮やか、やはり東京文化会館より見やすいです。
久々というわけでもないけど、古巣の新日本フィルを指揮してのアルミングが登場。
「やっぱりモーツァルトのオペラはいいなぁ」と、荒唐無稽、時代錯誤に加え、昨今の多様化の時代とは真逆な筋ながら、フィガロ、ドン・ジョヴァンニを経たモーツァルトの卓越した音楽に全身包まれ、幸せな気分になれました。
序曲が始まった瞬間に「おそっ!」と思いました。最近のキビキビとしたテンポ、古楽器奏法も駆使した鮮烈な音楽作りに慣れた耳には、ちょっと懐かしい、カール・ベームの名盤を思わせるような、どっしりとした中庸のテンポ。
これがほぼ全編貫かれ、各場面でのクライマックスなどでは、もっとテンポアップするなど、活力も欲しいなと感じる場面もありましたが、徐々にこの中庸なテンポに耳も慣れ、むしろ早口で展開されるアンサンブルなど、けっこう決まっていたし、何より耳に優しい音楽に身をゆだねることができました。
これをアルミングの才能とみるか、、あまり才気走ったところがないのが才能なのか、凡庸なのか。とは言え、新日本フィルは中々にまとまったアンサンブルで、引き締まった演奏でした。
歌手陣は総じてレベルが高く素晴らしかったです。
大好きなフィオルディレージ役の種谷さんは、中音域から高音域の声の伸びと力強さが見事で、改めて魅了されました。大アリアの「岩のように動かず」や「恋人よ許してください」ではさすがに低音域は出すのに苦労している感じもありましたが、集中力に富んだ歌唱で、会場の声援をかっさらっていました。
ドラベッラ役の藤井さんのメゾも、初めて聴きましたが、安定した歌唱と存在そのものがユニークな雰囲気を醸し出していて良かったです。
デスピーナ役の九嶋さんは、若いのに役としては老けた感じのメークで、楽しく舞台をかき回していました。医師や公証人への変装も面白かったですが、もう少し経験を重ねればもっと芸が多彩になるでしょう。
グリエルモ、フェランドの男性陣も好演。とくに糸賀さんのテナーは、個性的な声質ながらよく伸びる声で、アリアも素敵でした。
要となるドン・フェルナンドの河野さんも狂言回し的な役としてはまずまずでしたが、もう少し声に重みと深みがあればなおよかったなと。
演出はちょっと意味不明。舞台設定がレコーディングスタジオで、第1幕前半など、録音の場面かのように各歌手が譜面台に譜面を乗せ、そこでそれぞれ歌うという展開。
その心は何なのか不明ですが、昨今流行りの演奏会形式へのパロディでしょうか?
第1幕は後半に舞台が進むにつれ、スタジオから離れ普通の展開になっていくのですが、時々思い出したかのようにマイク・譜面台が出てきたりなど、よく分からなかったですが、歌を邪魔しない演出(←個人的にもっとも重要)だったのは良かったです。
あとグリエルモ、フェランドの異人への変装ぶりは秀逸でした。顔を白塗りしてメイク、衣装は黒で統一。これは本人と気づきにくいものでユニークでした。
18時開演、20分休憩で21時20分終演と長い公演でしたが、満足しました。