田部京子ピアノ・リサイタル
CDデビュー30周年×浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念part2
シューベルト:即興曲 op.90-1 ハ短調 D899
シューベルト:ピアノソナタ 第19番 ハ短調 D958
シューベルト:ピアノソナタ 第20番 イ長調 D959
やはり田部さんのシューベルトは絶品。田部さんと言えばシューベルト、シューベルトと言えば田部さん。
最初の即興曲ハ短調op-90-1から、晩年(と言っても30代だけど)のシューベルトの世界に連れて行ってくれます。
続く19番のソナタと同じハ短調。ともにベートーヴェンを強く意識した作品でしょうが、シューベルト以外の何ものでもない。冒頭の強い打鍵から、ひたひたと歩行動機が繰り返され、「冬の旅」の世界が展開されます。
続く19番のソナタも力強い演奏。このところの田部さんの演奏は、よくも悪しくも穏やかな優しいタッチの演奏を聴くことが多い気がしていましたが、きょうは何か気迫みたいなものを感じました。
後期三大ソナタの中では、もっともベートーヴェンっぽい作品だけど、やはり第2楽章なんかはシューベルトのリートの世界そのもの。
休憩を挟んでの後半は第20番のソナタ。40分以上を要する大作。長い演奏時間ですが、田部さんは集中力を切らさず、見事な演奏を繰り広げてくれました。
長い第1楽章は、よくも悪くもシューベルトっぽく、どこへ向かうのか、転調を繰り返しひたすらさすらう。展開部なんかも、展開しているのか、たださすらっているのか、挙動不審なのですが。そこがまたシューベルトっぽくて良い。
この作品の中核を成す、第2楽章はピアノで演奏されるリート。田部さんの演奏は、これしかないというテンポと歌いっぷりで、しみじみと感動しました。
軽めの第3楽章を経ての終楽章は、晩年の暗さはどこかに消え、なんとも平和的・牧歌的なメロディに心安らぎます。こういうところでの田部さんのテンポ感、タッチは絶妙で本当に素敵でした。
田部さんのシューベルトは素晴らしいのですが、レパートリーが昔から固定されていて(13番と18~21番、即興曲、楽興の時、3つの小品)、14番~17番のソナタとか、リートのピアノパートとかも、きっといいだろうなぁと思うので、ぜひ演奏してもらいたいです。