レイフ・オヴェ・アンスネス ピアノ・リサイタル
シューベルト:ピアノ・ソナタ第14番 イ短調 D784
ドヴォルザーク:《詩的な音画》 op.85 より
Ⅰ夜の道
Ⅱたわむれ
Ⅸセレナード
Ⅹバッカナーレ
ⅩⅢスヴェター・ホラにて
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 op.13 《悲愴》
ブラームス:7つの幻想曲 op.116
(アンコール)
・ドヴォルザーク:《詩的な音画》op.85 より IV. 春の歌
・ショパン:マズルカ op.33-2
・ショパン:マズルカ op.17-4
コロナ禍を挟んで7年ぶり待望の来日のアンスネス。
やはり格が違いました。至福の一夜。
形式の枠の中で音楽を極めたシューベルトとベートーヴェンのソナタと、より自由に音楽を羽ばたかせたドヴォルザークとブラームスとを前後半セットで演奏された秀逸なプログラム。
個人的には自由に音楽をとことん深めたドヴォルザークとブラームスに強く感銘を受けましたが、シューベルトとベートーヴェンのソナタも素晴らしい演奏でした。
最初のシューベルトの14番ソナタは、完成された3楽章の作品。20分強ほど。シューベルトのピアノ・ソナタはこの第14番以降晩年の3大ソナタ(19~21番)に向け音楽が深まっていきます。
3大ソナタと第17番で素晴らしい録音を残しているアンスネスが今回取り上げた第14番。
アンスネスの全く力みのないタッチが素晴らしかったです。全く押しつけがましいところは無いのですが、満たされた音楽が自然と体に沁みこんでくる感じで、まさに巨匠の芸術でした。
次のドヴォルザークで早くもきょうの公演の白眉となりました。
アンスネスはこの13曲からなる「詩的な音画」を全曲2022年に録音しており、最近とみに取り上げている様子。会場で購入してしまいました。
きょうはその中から、第1,2,9.10.13曲の5曲(アンコールでもう1曲)を演奏。全13曲を順に全部聴くと1時間近くになるので、こうして厳選してくれる方が、聴く方も集中して鑑賞することがだきて良かったです。
アンスネスのタッチは冴えにさえ、ピアノの音質を変えるスイッチでもあるかのように、各曲、各フレーズごと鮮やかに色合いが変わっていくさまが見事というほかありませんでした。
第1曲「夜の道」は故郷チェコのドゥムカのリズムを聴くようで、曲名とは裏腹に楽しく聴けました。
第2曲「たわむれ」はキラキラとしたタッチが印象的でしたが、うっかり途中、気が遠のいてしまいました。
最後の3曲は、いずれも凄い高みに達した演奏に圧倒されました。
第9曲「セレナード」は実にシンプルなメロディが奏でられるのですが、もの凄く心ときめきました。
第10曲「バッカナーレ」は変幻自在のタッチと響きの豊かさに目もくらまんばかり(聴いていることなのに)。民族楽器のツェンバロンみたいな響きまで飛び出して、いったいどうやってあの音を出したのだろう。
第13曲「スヴァター・ホラにて」は、南ボヘミアの巡礼教会のことらしく、巡礼のコラールとアルペッジョで降り落ちる鐘の音が交互にピアノで奏される美しい曲。目に浮かぶようで素晴らしかったです。
そして、圧倒的なピアニッシモで消え入るように締めくくられところは鳥肌ものでした。
これら繊細なタッチと響きの変化は、録音ではちょっと味わえないでしょうが、後日購入したCDで再体験してみたいと思います。
後半はベートーヴェンの「悲愴」ソナタから。アンスネス、ここではかなり禁欲的な演奏。両端楽章でも感情あらわに激しく演奏するというよりは、かっちりとした枠の中で端正に弾くことで作品のフォルムを明確に示していたかのようでした。
有名な第2楽章のカンタービレものめり込み過ぎず、あくまで淡々と奏でることで美しさを際立たせている感じでした。
最後のブラームスの「7つの幻想曲」は、昨日仲道さんの公演で聴いたばかり。全然、違う次元の演奏でした(優劣なく)。
ブラームス晩年のピアノ小品群は、決して小品ではなく1曲1曲がシンプルな構成、音楽ながら実に巨大で、実は昨日、作品116~119の全4作品を一気に聴くというのは、かなり消耗しました(演奏する方もそうだったのでは?)。
きょうのアンスネスの作品116は、ちょっとキザな言い回しですが、7つの曲がそれぞれ様々な星のようで、一つの星座を構成しているような想いしました(7星だから北斗七星?)。
1曲1曲の性格付けが見事で、約20数分、食い入るように集中して聞かされました。もうこれだけで十分。
アンコールは大サービスの3曲。
ショパンのマズルカ2作品も、見事な演奏でした。本プログラムはちょっと重い感じがしないでもなかったですが、やはりショパンの響きは心を和ませるというか華やか。アンスネスのショパンは絶品です。
ということで、いつも以上に熱く語ってしまい支離滅裂ですが、それだけ大興奮の一夜でした。