東京春祭ワーグナー・シリーズ
指揮:アレクサンダー・ソディ
ダーラント(バス):タレク・ナズミ
ゼンタ(ソプラノ):カミラ・ニールンド
エリック(テノール):デイヴィッド・バット・フィリップ
マリー(メゾ・ソプラノ):オッカ・フォン・デア・ダメラウ
舵手(テノール):トーマス・エベンシュタイン
オランダ人(バリトン):ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
ワーグナー:歌劇《さまよえるオランダ人》
東京春祭のワーグナー・シリーズは毎年素晴らしい公演になるのですが、今回の「オランダ人」は過去一素晴らしい公演になったと感じました。
前回2019年の「オランダ人」もあっぱれな公演でしたが、きょうは未だ聞いたばかりもあって興奮が収まりません。
休憩なしで一気に演奏するという以外、予備知識なしで臨んだのですが、序曲の終盤、ハープを伴った「救済の動機」での終結がなく、聞きなれない音楽での序曲の終結でした。
詳しいことは分かりませんが、初演で「暗い」と評判が悪かったためワーグナーがいろいろ手直しをしたものが、現在よく聞く「オランダ人」のようです(それも決定稿というわけでなく、未だ手を入れる予定だったとか)。
そういう意味で初稿での演奏なのかどうか。プログラム買えばそこに書いてあるのかな?
いずれにしても演奏はことのほか立派で、速めのテンポで推進力があり素晴らしい序曲でした。N響の弦楽器群のトレモロの迫力は凄まじく、嵐で荒れ狂う海上を見事に表現していたように思います。
合唱は男性陣が左右に30数名ずつ(3幕でダーラント側の水夫とオランダ人側と分かれるわけですね)、中央部に女性陣、総勢100名近い陣容。
オペラシンガーズでこの人数なので、その迫力たるや、もの凄い効果でした。
第1幕水夫の合唱から強靭な声。さらに第3幕、オランダ人の幽霊船の合唱との掛け合いは、目くるめく展開と迫力が圧巻でした。
歌手陣はすべて海外勢。この水準がめちゃくちゃ高い。とくにオランダ人、ダーラント、ゼンタ、エリックの4名に強力な布陣を置けば、この作品の成功は間違いありません。
歌手陣は指揮者の後ろ、譜面台を置いて歌いますが、あまり譜面台かぶりつきという感じではなく、まっすぐ前を向いて歌っていたのがよかったです。
オランダ人役のクプファー=ラデツキーはワーグナー公演ではお馴染み。引き締まった押し出しの強いバリトンで、主役としての求心力が素晴らしかったです。
第1幕登場でのモノローグ。暗いです。うじうじしてますが、声がいいので聞かせます。
ダーラント役のナズミもよく聞く名前。ちなみにナズミもラデツキーもどちらもスキンヘッドで、遠目には違いが分かりにくい。若干、ラデツキーの方が背が低いか。(よく見れば全然違うお顔ですが)
ナズミもよく響く包容力のあるバスで、安心感があります。ゼンタへの愛情豊かな表現力は素晴らしく、本当にいいお父さんです(金に目がないですが・・)。
エリック役のフィリップも素晴らしいテノール。抜けのいい声で、惚れ惚れさせられます。
そして好調な歌手陣の中、さらに抜きんでていたのがカミッラ・ニールンドのゼンタ。これはもう本当に素晴らしく感動しました。
「グレの歌」の時より、得意のワーグナーということもあってか、気品ある声と立ち振る舞い、とくに第3幕の救済へ向けてどんどん喉が温まり、感動的な名唱を聞かせてくれ泣けました。
作品がそう出来ているせいもありますが、ゼンタが素晴らしいと、オランダ人を始め男性陣はみな存在感が薄れていくように感じてしまいます。
クライマックスは、やはり救済の音楽はなく(筋としては救済されているのか?)、聞きなれた終結部とはちょっと違って違和感もありましたが、分厚いサウンドで圧倒されました。
2時間15分一気でしたが、そこまで長さは感じず、ソダシの強烈な推進力であっという間でした。会場も大盛り上がり。東京春祭屈指の名公演になったのではないかと思いました。
