預金種類(科目)の統合は全国の銀行に広がった。新型普通預金といっても、サービス自体は従来の普通預金であり、金利が今の2〜3倍になるだけで新たなシステム開発は必要ない。

預金者に対して、移し替え申込書を提出して貰うだけで、事務手続きは普通に預金の解約と振替入金だけである。

もともと普通預金を持っている場合はその預金を使うので口座番号も変わらない。通帳やキャッシュカードのデザインは新しいものになったが、中身はただの普通預金である。

「新型」とつけて金利を倍にしただけでマスコミが取り上げてくれて、自行の定期預金からだけでは無く、他行を利用していた預金者までも預け替えてくれた。

初めは様子を見ていた他行も金利が倍と言う事の効果の大きさにより、追随する銀行が現れてきた。

あすなろ銀行営業企画部の清水四郎は、他行が追随することは想定していた。担当役員から一定の結果を出したので、そろそろ金利を下げた方が良いのではないかと言われていたが、「もう少し時間を頂ければ分かります。」と答え、事実そうなった。

大手銀行は預金口座数が多いので、普通預金が多い銀行は資金調達コストを掛けずに預金が集まっている。ところが、新型普通預金口座は従来の普通預金の倍の金利をつけるので負担は大きい。

しかも集めた預金を運用する企業向け融資の金利も低いため利ざやは減るばかりであるが、あすなろ銀行は大手銀行に比べると口座数は少ない。さらに、運用先は個人向け融資なので利ざやは一定以上確保できるのだ。

それを分かっている筈の大手銀行もあまりの預け替えが起きたことと、顧客からの「小さい銀行が出来るのに、大手銀行でどうして出来ないのか!」て言う声に止む無く始めた。

そうなると、一時的に離れた預金者は戻って来た。清水四郎の上司は不安だったが、大手銀行が次に打ち出して来る事によって、再び預金者が大手銀行に戻って行くことが分かっていたように冷静に言った。

「部長、大丈夫です。私が見ているのは大手銀行ではなく、お客様なので必ず結果が出ます」そう答えて、その理由の説明を始めた。

続く