東芝以外のレコード会社PMとジャケット記号(第4回 東洋化成~ワーナー編) | ザ・ビートルズ完全日本盤レコード・ガイド

ザ・ビートルズ完全日本盤レコード・ガイド

THE BEATLES PERFECT JAPANESE RECORD GUIDE(BPJRG)を目指して、研究しています。

プレス専門会社である東洋化成に全面的にプレスを委託していたと思われるレコード会社で、ソニーに続く2社目はワーナー・ブラザーズ・パイオニア、後のワーナー・パイオニアです。ソニーの場合は、会社設立から67年間に限り、シングル・EPを東洋化成にプレスを委託していたようですが、ワーナーは設立の71年からアナログ時代末期の80年代後半まで、シングルのほとんどのプレスを東洋化成に委託していたと推測しています。

 

■ワーナー・ブラザーズ・パイオニア(ワーナー・パイオニア)

以前、東芝が受託したレコード会社としてワーナーを取り上げましたが、その際に述べたようにワーナーは自社のプレス工場を所有していなかったようですので、すべてのレコードのプレスが社外への委託だったようです。LPに関しては東芝への委託プレスが多いですが、その他のレコード会社へも委託していたようです。

一方シングルに関しては、ほぼすべての盤に「T」を含んだPMが刻印されていることから、東洋化成へプレスを委託していたことが確認できます。LPに関しても、総合試聴盤については確認できたすべてが東洋化成プレスでしたので、総合試聴盤及びシングルは東洋化成へ、通常版LPは東芝を中心とした複数のレコード会社へ委託するといったような棲み分けをしていたようです。なお、ワーナーの4曲入りEP(コンパクト盤)については、邦楽は存在しますが洋楽は確認していません。ワーナーは71年に設立されており、国内ではEP70年代に入ってからあまり製作されなくなったため、ワーナーも洋楽EPは製作しない方針だったのかもしれません。

<ワーナー製シングル東洋化成委託プレスPM1T8」(718月プレス)>

 

ここで、ワーナー製LP、シングルの他社への委託状況を調査した結果を報告します。まずLPについてですが、seasons-of-wrightsさんからご所有のレコードに関しての貴重なデータを提供いただいており、大変感謝しています。seasons-of-wrightsさんがお持ちのレコードと当方所有のレコード計200枚より解析した結果、71年から89年までに発売されたワーナー発売LPの約70%は東芝への委託プレスであることが分かりました。次に多いのがソニーで約16%、次いで東洋化成とポリドールが同率で、ビクター、キングの順になりました。東芝はワーナーのLP発売時期の全期間にわたり受託していますが、ソニーは東洋化成の受託がなくなった76年中期から東洋化成と入れ替わるように受託が始まっています。

<ワーナー製LP他社プレス委託割合>

 

シングルに関しては、上述の通りほとんどが東洋化成委託プレスですが、ごく一部、他社プレスの盤が存在するようです。約130枚の解析の結果、1枚だけソニーへの委託盤が確認できただけで、他はすべて東洋化成委託盤でした。

ワーナー製シングル盤PMを詳細に見ていきます。ワーナー設立直後に発売されたシングルのPMは、「T」が中央に位置する東洋化成のPMが、上の写真のように東芝の東洋化成プレス委託盤と同様に、ランオフ部に刻印されています。このランオフ部のPMは、ある時期からワーナーの総合試聴盤や89年以降の東芝製レコードと同様のレーベル内へと刻印位置が変更となります。

この変更時期ですが、749月発売のシングルではランオフ部のPM刻印、7411月発売のシングル以降はレーベル内のPM刻印となっていますので、7410月前後に変更となったと推定できます。この時期は前回報告したソニーの東洋化成への最終プレスの時期(PM4TX」(7410月プレス))と一致します。すなわち、ソニーが東洋化成へのプレス委託をやめて、自社プレスに切り替えた直後に、ワーナーのPMの刻印位置がランオフ部からレーベル内に変更したことになります。以上より、東洋化成はソニー製レコード用に使用していたプレスのための製造ラインを、ソニーからの委託が終了した後にワーナー用として使用し始めたのではなかと推測しています。

<ランオフ部「4T9」(749月プレス)>

 

<レーベル内PM4TY」(7411月プレス)>

 

東芝の東洋化成プレス委託盤は70年代末までPMはランオフ部に刻印されていますが、上述の通りワーナーからの委託盤では7410月頃にレーベル内PM刻印に変更となったことが確認できました。この違いが生じたのはなぜでしょうか。単発的に発生する東芝や他のレコード会社からのプレス委託とは異なり、ソニーやワーナーからの委託はほぼすべてのシングル盤のプレスを請け負っていましたので、東洋化成内にソニー→ワーナーのためのプレス・ラインが存在し、そのラインと東芝等の他のプレス・ラインは完全に分離されていたのかもしれません。そのため、ソニー→ワーナー委託のPM刻印は独自の方法で行うようになったとも考えられます。

 

初期のワーナー製シングルのジャケット裏には、ポリドール製レコードと同様に、発売年月と思われる3桁または4桁の数字(年月)が表示されています。ポリドール製レコードの場合は、シングルだけでなく、EPLPにも年月が印刷されていましたが、ワーナーの場合はシングル盤のみの表示で、LPには表示されていません。その後、74年頃には中点またはピリオドを挟んだ4桁の西暦年と月の、より分かり易い表示に変更となりました。

<ジャケット年月(上:71年9月、下:74年9月)>

 

また、多くのワーナー製シングルの年月表示の横には「TO★」のような記号が印刷されています。この「TO」は、ワーナーのシングルは、ほぼすべて東洋化成への委託プレスであることから、「東洋化成」の印ではないかと考えていました。しかし、ジャケットにプレス会社の記号を印刷する例は他のレコード会社ではありません。むしろジャケットの印刷会社の記号を表示しているレコード会社が多いので、この「TO」も印刷会社を表しているのかもしれません。「東京」、「東洋」など、「東」から始まる印刷会社かも知れませんし、大手の「凸版印刷株式会社」も「TO」です。特定は困難ですが、「TO」が印刷会社の略であるとすると、ほとんど1社にジャケット印刷を委託していたことになります。

<ワーナー製シングルの「TO★」>

 

TO」に続く黒星「★」はほとんどのシングル・ジャケットに印刷されていますが、ごく一部のタイトルでこの「★」が印刷されていないジャケットや、74年頃までのシングルには白星「☆」が印刷されたジャケットを確認することができます。しかも、同一タイトルで「★」が印刷されているジャケットと印刷されていないジャケットが存在することが分かりました。この「★」ありなしとPMを比較しますと、発売日から時間が経ってプレスされた盤、すなわち再発盤に星印がないレコードが多い傾向があることが分かりました。例えば、733月発売のシングルで、PM737月プレスの盤のジャケットには「★」が印刷されていますが、同一タイトルでも743月プレスの盤のジャケットには印刷されていません。また、ワーナーの盤にはポリドール盤と同様に「1-A-1」、「1-B-2」のようなスタンパーの順番を示していると思われる刻印がされています。この刻印の最後の数字が大きいほどスタンパーが新しいと考えられますが、「★」がないジャケットは、この数字が大きい盤が多い傾向があります。以上のことから、「★」は初回印刷ジャケットの印であり、何回か版を重ねると星が印刷されなくなったのではないかと考えています。白星「☆」も星なしと同様の傾向があることから、74年頃までは再版の印として用いられていたのではないかと考えています。

<同一タイトルの「★」ありなし>

 

最後に、ビートルズ関係の主なワーナー製シングル盤のPM及びジャケット年月を以下の一覧表にまとめました。レーベル内PMは、背景に模様があると非常に読みにくいため、PMが確認できたシングルの多くは白レーベルの見本盤でした。

<主なビートルズ関係ワーナー製シングルのPMとジャケット年月>

 

※はランオフ部刻印PM、他はレーベル内刻印PM