「…ちゃんとケーキになってる」
リビングに入ってきたキュヒョンの開口一番の台詞だ。
「自分でも驚いてる」
そこそこの出来栄えにキュヒョンは目を輝かせた。
多分、自分で仕掛けておきながらも期待はしていなかったのだろう。
マグカップに淹れたてのコーヒーを注いで。
「美味しそう」
キュヒョンはフォークを手にすると、それなりの大きさのあるデコレーションケーキにそのまま突っ込んで、崩した一部を掬い上げる。
「切り分けろよ」
「ヒョンと俺しかいないのに?」
暫し視線を合わせて。
それもそうだけど、と渋るとキュヒョンはシウォンにもフォークを渡す。
「誰もいないの。二人だけ。さっき言ったよね?俺はずっとヒョンの傍にいるし、ヒョンだってそうでしょ?だったら今更飾る必要もないでしょ」
真剣な瞳でそう言われてシウォンは破顔した。
「ね。はい」
手渡されたフォークを受け取ると、やっと掬ったケーキを口に入れてキュヒョンは難しい顔をする。
「不味いのか?」
シウォンはなんとなく不安になる。
大体シウォンにケーキなんてものを作らせたキュヒョンが悪いのだが、こうなってくるとそんなことはどうでもよくなる。
「ううん。その辺りのケーキより全然美味しい」
そう言いながらもキュヒョンは文句を言うような口調でケーキを食べ続けている。
なんで、こんなにスポンジがフワフワなんだとか。
クリームの柔らかさと甘さが絶妙だとか。
苺、サイコー! だとか。
言われたところで苺以外は初めて作ったものだからわかるはずもない。
とりあえずは失敗にならなかったことに安心する。
「今の現場にさ。菓子作りが趣味のスタッフがいるんだ」
「…うん?」
大の男二人がケーキを突きながら何をやっているんだか、と笑いが零れる。
「今度、聞いておくよ」
「何を?」
「美味しいケーキの焼き方」
「…そんなの聞いてどうするの?芸能界引退したらパティシェにでもなるつもり?」
それも悪くないかな、と思う。
「来年はもっと美味いのを焼くよ。ちゃんと蝋燭もたてて」
それくらいでキュヒョンが傍に居てくれると言うなら容易いことだ。
寧ろ喜んでやってやる。
フォークを咥えてキュヒョンが笑う。
「んー。じゃあ来年はクッキープレートも付ける?」
「お姫様のお望みならば」
「…よきにはからえ」
これからもキュヒョンの誕生日はバニラの香りだ。