手渡されたのはフードパック。
「これ一杯は持って帰れるって」
「…なにを?」
キュヒョンはにっこりと笑うと並んでいるビニールハウスのひとつにシウォンを引っ張って行く。
そして扉を開けた。
中から甘い香りがふわりと漂う。
「え?」
「苺狩りに決まってるでしょ」
「決まってるって…」
キュヒョンは苺を摘み取って、ヘタを取った果実をシウォンの口に放り込んだ。
「…うまっ」
「だよねぇ。このパック一杯は持って帰れるんだって。後は食べ放題だよ」
嬉しそうにキュヒョンが笑う。
「たまにはこういう健康的なデートもいいんじゃない?」
鼻歌まで弾んでいる。
もちろん不服な訳ではないから、とりあえずは「いちご狩り」を楽しむ事に決めた。
熟れて甘い果実は市販されているものよりも格別に美味しく感じられる。
流通の関係で早めに摘み取られたものよりも、ここで十分に熟されるせいだろう。
外はまだまだ寒いけれどハウスの中は暖かい。
「しかし、いい天気だなぁ」
いちごを齧って キュヒョンはビニール越しの青空を眩しそうに見上げた。
「暖かいしな」
「ちょっと動くと暑いくらいだよね」
言葉通り、キュヒョンの頬がほんのりと赤くなっていて、シウォンはそこに触れて笑う。
「いちご、だ」
「…?うん。苺だよ」
苺を口に入れたキュヒョンが首を傾げる。
「共食いだ」
「?」
もぐもぐと口を動かして更に首を傾げるキュヒョンが可愛くて仕方がない。
いつまでも可愛いってどうなってるんだ。
可愛いいちごが、ふふっと笑う。
「お腹いっぱいだし、気持ちいいし、眠くなるよねぇ」
「じゃあ帰りは俺が運転するけど?」
「いいよ。まだ寄らなきゃならない場所があるから」
「どこ?」
「買い物だよ。必要な物がね、結構あるんだ」
にっこりと極上の笑顔で。
楽しそうだ。
とんでもなく楽しそうだ。
こういう時のキュヒョンは間違いなく、何が大きな悪戯をしかけてくる。
こんなことなら誕生日プレゼントは何か形に残るものに決めて貰った方がよかったかと後悔したが、時すでに遅し。
帰り着くなりキッチンに買い込んだ大量の荷物を運びこむ。
およそシウォンのキッチンには不釣り合いな物ばかりだ。
それをカウンターテーブルに所狭しし広げていく。
まずは今日の戦利品の苺。
それから、つい先程近くのスーパーで買ってきたベーキングパウダー。
薄力粉、卵、無塩バターにホイップクリーム、バニラエッセンス。
「これで完璧でしょ」
満足そうにそれらをみつめてキュヒョンはシウォンに紙を手渡した。
「どうしろと?」
その紙面に目を落としてシウォンは真剣に自分の目を疑った。
しかし何回見直したところで、内容が変わるわけでもない。
「誕生日といえばケーキでしょ?ヒョン作って」
予想外の展開にシウォンは慌ててキュヒョンの腕を掴んだ。
「ちょっと待て!俺はそんなもの作ったことないぞ!?」
「だろうね。聞いたことないし」
「絶対、無理」
「大丈夫だって。ヒョン器用なんだからレシピどおりやれば。余程の料理音痴じゃない限りケーキにはなってなくても食べられる物にはなるよ」
そういう問題ではないと思うのだけど。
キュヒョンがにっこりと微笑んだ。
どうやらこの辺りの反応は予想済みだったのだろう。
「頑張ってね。シウォニヒョン。じゃあ、ちょっと寝てくるから起こさないでね」
ふあ、と欠伸をしてキュヒョンが寝室に向かうのを見送って。
キッチンに取り残されたシウォンはレシピを睨むと、この食材たちと戦う決心をするしかなかった。