要するに。
この二人は。
「…全部知ってたと…」
はぁぁ、とシウォンの口からため息が漏れて、すっかり拗ねたキュヒョンは布団を被って出てこようとしない。
シウォンがドンヘに泣きついたのと同じように、キュヒョンはヒョクチェに相談していたらしい。
あの最初に出会ったあの日。
会場に入ってきたシウォンを見つけたキュヒョンは視線をそこから外さないままヒョクチェの名前を呼んだ。
「…理想が歩いてる」
好みのタイプだとかそういう意味ではなく、自分のデザインの「理想」
けれどそれはすぐに「一目惚れ」というものだと気付いてしまった。
最初は色々あったせいで「吊り橋効果」的なものだと思い込もうとしたけれど、それは無駄な努力だった。
シウォンに会えばドキドキするのは止められない。
もっといろんな表情を見たいと思った。
色んな言葉を聞きたいと願った。
いつしか溢れてくるデザインはシウォンに着てもらいたいデザインに変わっていた。
どうしたらいいのか、どうすればいいのか。
何もかも分からなくて途方に暮れそうになった。
それでも、近くに居たくてどうしようもなかった。
ヒョクチェはキュヒョンのそんな言動をいつだって受け止めて、心の負担を軽減していたのだと思う。
「知ってるからって俺たちが言うんじゃ何の意味もないしなぁ」
「そう。それにさ。お前ら…似てるんだよね。相手が自分に対して絶対同じ想いを持ってるはずがないって自己完結しちゃってるっていうか…。だから俺たちが言ったところで無理だろうと思ったからさぁ」
だから言わなかった、とヒョクチェが笑う。
「ほんとにどうしようもなくなったら動くつもりではいたけど」
「まぁ、なんとか上手いこといったみたいだし」
天使みたいな顔した悪魔が居る。
いや、悪魔の顔した天使なのか。
しかも2人も。
眩暈すら覚えるシウォンにドンヘが首を傾げた。
「ところで、いつ引っ越すんだよ。手伝うけど」
「…シウォナ、引っ越すの?」
今までピクリとも動かなかった白い塊から、キュヒョンが顔を覗かせる。
「引っ越すよ」
キュヒョンの血が流れた場所に帰るのが怖い。そう言ったら笑われそうだ。
結局隣の住人はあのマンションのオーナーの息子だった。
子供の頃から何でも自分の思いどうりになっていたせいか社会に出ても仕事は長続きせず、転職を繰り返していたが、最近では職に就くことすらしなくなったらしい。
親が持っているいくつかの不動産の中からあの部屋を与えられ、特に不自由もなく生活していたようだ。
人付き合いだけは全くできなかったようではあるけれど。
結局、危険ドラッグであんな行動にでてしまってはさすがに親でも庇いきれない。
そもそも危険ドラッグってなんだ。
そんなに危険だとわかっているなら、早くどうにか対処すればいいんだ
「…遠い、の?」
「いや。すぐ近く。『バックヤード』の入ってるマンション」
PROMISE YOUのビルのすぐ近くだ。
「キュヒョナに嫌われずに済んだらそこに引っ越すつもりで仮契約だけ済ませてたんだよ」
「…呆れた」
「うん。ゴメン」
「じゃあ上手くいかなかったらどうするつもりだったんだよ」
「全然違うところに引っ越すつもりだった」
当たり前だというようにシウォンにそう言われてキュヒョンは「よかった」と呟く。
「遠くじゃなくて、よかった」
「また、鍵もらってくれる?」
「…いいよ。もらってあげる」
幸せそうに笑う癖に素直に「欲しい」と言えないキュヒョンにヒョクチェは溜息を吐く。
「シウォンさぁ。本当にこいつでいいの?」
「キュヒョナがいい」
「素直じゃないよ?苦労するよ?」
「でも、それも可愛くて仕方がないんだ」
「…そこは悔しいけど納得できるわ」
何せキュヒョンの場合、発せられる言葉よりも表情や目の方が物語る。
再び溜息を吐いたヒョクチェにシウォンは心からの「ありがとう」を告げる。
「別に。二人が幸せなら、俺はそれでいいよ」