帰宅してからシウォンは本気で頭を抱えた。
キュヒョンの事を思い出しただけで叫びだしそうだ。
今までの勉強も恋愛経験も全く役に立ちそうにない由々しき問題だ。
髪をぐちゃぐちゃに掻き乱したところで絡まった思考が解けるわけもなく、シウォンはスマートフォンに視線を落とした。
そして見つけた名前にコールする。
5回目のコール音で耳馴染んだ声がした。
「はい?」
「俺はどうしたらいい!?」
「はぁ!?」
とりあえず落ち着けと、まさかのドンヘに諭されて。
どうやら自分はキュヒョンの事を恋愛対象として好きらしい、と話すと電話の向こうでなぜだか爆笑された。
「いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」
「会ったのは前にメシ食いに行った後に一回だけだし、その一回が今日だったんだ。全部で3回だぞ、3回。それだけで好きとか、なんでそうなるんだ、俺」
「はぁ…だから落ち着けって。まぁ、期間や会った回数の問題じゃないんじゃないの?人それぞれだと思うぜ?一目惚れってのもあるんだし」
「一目惚れ?信じる?それ」
「…うん。あると思うよ。俺は経験ないけどね」
くすくすと笑う声が耳に心地よくて肩から力が抜ける。
はぁ、と盛大な溜息を吐いてシウォンは泣きそうになった。
「もう、本当。なんであんなに可愛いんだろ、キュヒョナ」
「まぁ、確かに可愛いけどさ。あいつの場合ただ可愛いだけじゃないだろ。そこそこ毒吐くし」
「知ってる」
「酒豪だし?」
「知ってる」
「割と男らしいとこあるし」
「知ってる」
「でも子供みたいなとこあるし」
「知ってる。もう全部可愛い」
「あー…。もう、それ重症だよ。分かってて好きならアレじゃない?」
「あれってなんだよ」
「だから、時間とかそういうの関係なくない?もう十分キュヒョナのことわかってるじゃん」
成程。そういうことになるのか。
確かに言われればその通りなのかもしれない。
知り合ってどれだけ長い間一緒に居ても分からない人だってたくさんいるのに、キュヒョンの事をこれだけ知っていればそれは好きになるのに十分な要素なんだろう。
そして新しい一面を発見したとしても、きっと自分はそんな彼を愛しく思うに違いない。
「ドンヘって、もしかして凄い人?」
「俺はいつだって凄い人だよ」
分かっているのか、いないのか。
それでもそんな返事に妙に安心する。
「どうしたらいいんだろう」
独り言のように呟いたら耳元から答えが返ってくる。
「それはシウォナが決める事だろ?当たって砕けるもよし。そのままの関係で居続けるもよし。なんなら俺が今どうするか決めて、その結果をすべて俺のせいにするもよしだけど?」
「そんなことしないって」
「うん。シウォナだもんな」
「それにドンヘの場合とりあえず『当たって砕ける』方を選択するのはわかってるし」
「あ。ばれてる?」
くくっと笑う。
なんだか絡まっていた思考が解された。
後は自分で解くしかない。
「ちょっと考える」
「そうしろ。考えたって気持ちが変わらないなら本物でしょ?」
「…ほんと、どうしたドンヘ」
「何が?」
「凄いね。お前」
「経験者だからな」
最後は真剣な声で言われて。
みんなが誰かを簡単に好で居続けてる訳じゃないんだと思う。
通話を切って。
自問自答する。
どうしよう?
この気持ちが本物なのか。
それとも一時のものなのか。
それは時間を置かなければ分からないことなんだろう。
どうしたい?
好きだと告げるべきなのか。
それともこのまま居続けるべきなのか。
もし今告げたとしたら砕けた時の傷は浅くて済むのかもしれない。
だけど今の柔らかい時間を失くすのも嫌なのだ。
「結局、すぐに解決できないかー…」
ソファーに沈んで天井を見上げる。
ああ。だれかあの天井に答えを書いてくれないだろうか。
そんな事を考えながら。