「シウォン先生、彼女でも出来た?」
食堂で昼食を摂っていると、向かいに座っていたジョンスがにこにこ笑顔で尋ねてくる。
「残念ながら」
「そうなの?」
「どこから、そんな話が…」
「看護師達の間でもっぱらの評判だけど」
はぁ、と気の抜けた返事にジョンスが笑う。
「まぁ、みんな話題に飢えてるからね。特にシウォン先生もてるからさ」
「ジョンス先生が言う?」
人当たりがいい目の前の青年は看護師のみならず患者にも大人気なのに。
「でも、俺もそうかと思ってたよー。今までに見れなかったシウォン先生たくさん見れて面白い」
「はぁ?」
「例えば、それ」
ジョンスが指したのはシウォンの手にあるスマートフォンだ。
「百面相しながらメール打つ人なんて、そうはいないから愉しくてさ」
言われてシウォンは自分の顔を撫でる。
百面相ってなんだ。
確かに、今日は仕事が定時で上がれそうだしキュヒョンに連絡しようかと思ってみたものの、どうやって切り出そうかと考えてはいたけれども。
「今まで、そんなシウォン先生見たことないよ。貴重だね」
「そうですか」
「お。否定なしかよ」
「もう、好きにして。話題作りにご協力出来てなにより。でもジョンス先生にだけは言っておきます。女じゃないから」
「そうなの?まぁ、俺は楽しいからなんでもいいけど」
本当に楽しそうなのが凄いな、と、シウォンはお茶を一口。
「あ。そういえばさ」
「ん?」
「この前のカーディナルの友達は、問題なかったわけ?」
一瞬、目の前のジョンスを見つめてしまった。
なんだ、なんの超能力だよ。
今、このタイミングでそれがよくでたな。
「…問題ないみたい」
「そっか、よかったね」
「本当に」
視線を画面に戻してシウォンは文章を組み立て始める。
その様子を見ているジョンスが笑いを堪えているのに気づかずに。
それでも結局出来た文章はなんてことはない簡単な文章で、シウォンは自分の文章能力がこんなに無かっただろうかと絶望しかける。
【今日、定時で上がれそう。よかったら晩飯付き合って】
【こっちも予定空いてるよ。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、詳しくは合ってから話す。終わったらとりあえず連絡して】
そんなメールのやりとりをしての夕方。
帰宅途中のキュヒョンのオフィスビルの前で停車させると、歩道で待っていたキュヒョンが助手席に乗り込んでくる。
「お疲れ」
「そっちこそ」
「腹減ったー」
「俺も」
キュヒョンはシートベルトを締めながら尋ねる。
「シウォナ、今日は飲める?」
「飲めなくはないけど」
曖昧な返事にキュヒョンが笑った。
「じゃあ、俺も今日は止めとく」
「別に遠慮しなくていいのに」
「別に遠慮はしてないよ。飲めない人ならともかく、飲める人の前で飲んで運転だけさせるほど薄情じゃないし、俺。次は飲める時に声かけて」
「…わかった。で、どうしようか?」
また何気無く次の約束が決まっていて、シウォンは少しばかり感心してしまった。
キュヒョンのペースに巻き込まれているようにみえて、自分の希望も叶えられている。
「じゃあ…ラーメン食べたい」
「そんなのでいいの?」
「ラーメンがいいの」
何故だか得意気な顔で言うものだから、少し笑ってしまう。
「なんだよ」
「いや、キュヒョナだな、と思ってさ」
「なにか馬鹿にしてる?」
「してない。とにかく飯だろ」
シウォンは笑ってアクセルを踏む。
この辺りでは評判の店で、お洒落とは程遠い食事を二人でする。
会ってから間もないけどなんだか昔から知っているような安心感は、彼の人懐こい笑顔や柔らかい声のせいなのか。
「で、頼み事ってなんなの」
「うん。帰りにちょっと寄っていって欲しいんだよね。来年出すデザインの試作出来たんだけど、コートがね。絞り込まなきゃなんないんだけど、どっちもいいんだ。スタッフの意見も別れちゃったから困っててさ」
「…俺、何も出来なくない?それ。いっそ両方出したら?」
「そうはいかないの。だから困ってるんだろ」
それもそうか。
「俺に何をしろって?」
キュヒョンはニヤリと笑ってシウォンの肩を叩く。
「…内緒」
「…怖いから、それ。言えよ」
「ナイショ!」
運ばれてきたラーメンのスープを一口飲んで「あ。美味い」と満足そうに食べ始めたキュヒョンは、これ以上話す気はないらしい。
仕方ない。
付き合うか。
パチンと箸を割ってシウォンは溜め息をついた。