先週の金曜日の夜に放送された「中村勘三郎襲名記念公演」に密着したテレビ番組を録画していたものを今日見ました,掃除しながら.
http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2007/07-045.html
思うことがたくさんありました.その中でも二つについて語ります.1つは「楽しむこと」,もう1つは「優しさ」です.
楽しいっていうのは素晴らしい感情で,おそらくコレがないと人間なんて長生きできないんでしょう.仕事が楽しい人もいるでしょうし,ディズニー
シーできゃーっていうのが楽しい人もいるでしょう,SEXが楽しくてしょうがない人もいるでしょう.まぁ人それぞれ何を楽しいと思うかは違ってくると思い
ます.僕はシーに行っても別に楽しめそうにないですからね.楽しめることと楽しめないことはそれぞれあるとはいえ,楽しめることが多い方が幸せな気がしま
す.幸せになれるチャンスが多い気がします.
プログラムのひとつで「高校生に歌舞伎を見せよう」というものがありました.歌舞伎なんて見たことない,興味もないクソガキどもは好き勝手なこ
と言っちゃうわけです.幸田クミのライブの方がいい,とか過去のことには興味がないとか.でも,実際見ると変わるんです.歌舞伎面白い,と.見たことな
かったからわからなかったけど,実際に見てみると面白かったという声がありました.一方,つまんなそうな顔のまま笑いどころでも一切笑わない人も見切れて
ました.それはそれでいいんです.つまんないならつまんないで.僕が思ったのは彼ら彼女らの精神構造について.おそらく「楽しかった」と思えた人たちの中
で,本当に歌舞伎が自分の興味に合っていた人って少ないんじゃないかなと思います.妄想ですけど.でも,楽しいっていう感想が出てきた.これは楽しかっ
たっていうより「楽しもうと思ったら,楽しめた」っていうのが正確な表現だと思います.
恐らく,幸せに生きるためには楽しいことをたくさん見つけることが1つのファクターになっていて,たくさん見つけられるかどうかは「楽しもう」
という気持ちがどれくらいあるかに依存してくるんじゃないでしょうか.一見つまらないこと,意味のなさそうなことでも,楽しもうと思えば楽しくなるんじゃ
ないか,そうすれば幸せに生きられるんじゃないだろうか.そんな気持ちになりました.
優しさは最近の僕のテーマでもあります.
漫画「天」で,死を目前にした赤木が,癌で余命幾ばくかの友人の「死ぬのが怖い」という言葉に対してこう言います.
「大丈夫… おっかなくなんかねえんだよ…俺が先に死んでやる…綺麗に死んでやるから…安心しろ…だから…受け入れてやれ,死を…出来る限り…温かく…迎え入れてやれ…出来るさ…お前にも出来る
俺が見てきた限りじゃ
あったかい人間はあったかく死んでいけるんだ
おっかなくなんかねえんだよ…!」
赤木曰く,あったかい人間はあったかく死んでいけるそうです.あったかく死んでいった人間はあったかい人間だったのかもしれません.
今回の特番の1つの軸として「中村源左衛門」という歌舞伎役者の話がありました.20歳で十七代目中村勘三郎の門弟となってから52年間,名脇役
として技を磨き,主役をやることは叶わない立場にもかかわらず,代役としてではあるものの主役を任されたこともあったそうです.三代にわたって中村屋を影
から支えた男は,余命3ヶ月を告げられたとき「舞台に上がること」を選びました.十八代目中村勘三郎襲名記念公演の千秋楽,12月の京都にあがることを目
標に生きたものの,願い叶わず10月20日に逝去されたそうです.
彼のいない12月の京都,千秋楽の最後の口上で,役者一同が涙にくれるんです.
片岡仁左衛門
「最後のこのご披露に私もご一緒できますことを本当にうれしゅうございます.全くおめでたい限りでございます.
ただ一つ,残念なことがございます.中村さんのお弟子さんで助五郎さんという方がいらっしゃいました.この方は去年三月,幹部に昇進されて,源左
衛門を襲名され,十八代目さんとご一緒にご披露なさいました.その方は病と戦いながら一生懸命に舞台を勤めてまいりましたが,この10月に帰らぬ人となり
ました.彼はこの京都の顔見せのご披露に是非,自分がご一緒したい,出して欲しいと最後まで望みを捨てなかったそうにございます.その望みは叶いませんで
した.ところが,十八代目は彼の写真を懐に入れまして,口上を勤めておりまする.そしておそらく,お前,一緒に口上を勤めているんだよと話しかけているこ
とと存じます.どうか,後ほど勘三郎さんに拍手を下さるときに,舞台の上ではなかなか拍手をいただく機会の少なかった源左衛門さんでございます.一緒に拍
手をしてあげてください.よろしくお願いいたしまする」
…役者一同,正座をして下を向きながら涙を堪えられない
坂東弥十郎
「ただいまの仁左衛門のお兄さんの話をうかがいまして,私,感無量になってしまいました.涙が止まりません.巡業でも源左衛門さんも一緒にお風呂に入ったり,色々な思い出がございます.本日の千秋楽,無事に迎えられ,本当におめでとうございました」(号泣)
中村勘三郎
「先ほど,優しいことを末座の兄が言ってくれました.(遺影を見せながら)これが源左衛門でございます」(大きな拍手)
テレビは何らかの意図をもって作られるものなので,画面から伝わることが全てではないかもしれませんが,その場を,京都の歌舞伎座を支配していたのは優しさでした.僕も,涙が止まりませんでした.
中村屋は大きな家族である,とナレーターが語りかけます.大きな家族である,強くて温かい絆がある,と.