相続法の改正が順次施行されておりますが

今日は相続と対抗要件についての重要な改正である

民法899条の2についてです。

なお,本条は施行日(2019.7.1)以後に開始した相続に適用されます。

詳しくは こちらへ

 

改正民法899条の2は,従来の判例を変更する改正となっています。

どの点で変更があったのか表で比較したうえで

従来の最高裁判例をまとめて掲載したいと思います。

 

第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

2 (省略)

 

改正民法と従来の判例との比較表

 
比較すると,本改正で変更があったのは赤字の×の部分
①相続分の指定
②特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる旨」の遺言)
の2点ということになると思います。
 
この2つについては,単独申請の相続登記だからといって
のんびり準備してると,下手をすれば損害賠償責任を
問われかねなくなったということになりますね。
 
※相続放棄については,改正民法でも変更がないとされています。
ただし,「即断できません」との指摘もあります。
私は,下記最判昭42.1.20が,「この効力は絶対的で,何人に対しても」
とまで述べていて,明らかに他と毛並みが違うので
相続放棄は従来どおり○だと考えます。
 

「(法定)相続分を超える部分については」の意義

この点について,伊藤塾講師・呉明植弁護士の解説では
「民法177条等の「第三者」に関する制限説を変更するものではないことを
明らかにする趣旨」であるとしています。
ちょっとわかりにくいですが,自己の法定相続分の相続について
登記なくして対抗できるとする最判昭和38.2.22を変更するわけではない
という意味かと思います。
 

最高裁判例

最判昭和42.1.20 (相続放棄)

 民法九三九条一項(昭和三七年法律第四〇号による改正前のもの)「放棄は、相続開始の時にさかのぼつてその効果を生ずる。」の規定は、相続放棄者に対する関係では、右改正後の現行規定「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす。」と同趣旨と解すべきであり、民法が承認、放棄をなすべき期間(同法九一五条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると(同法九三八条)、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。

 

最判昭和38.2.22 (自己の法定相続分の相続)

 相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院判決、民録二五輯一九四四頁参照)。そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない(大正一〇年一〇月二七日大審院判決、民録二七輯二〇四〇頁、昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集六〇巻七六七頁参照)。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。

 

最判平成5.7.19 (相続分の指定)

 原審の適法に確定した事実関係によれば、(一) Dの死亡によりE及び被上告人を含む四名の子が本件土地を共同相続し、Dが遺言で各相続人の相続分を指定していたため、Eの相続分は八〇分の一三であった、() Eは、本件土地につき各相続人の持分を法定相続分である四分の一とする相続登記が経由されていることを利用し、右E名義の四分の一の持分を上告人に譲渡し、上告人は右持分の移転登記を経由した、というのである。

 右の事実関係の下においては、Eの登記は持分八〇分の一三を超える部分については無権利の登記であり、登記に公信力がない結果、上告人が取得した持分は八〇分の一三にとどまるというべきである(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参照)

 

最判平成14.6.10 (特定財産承継遺言)

 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。このように、「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁、最高裁平成元年(オ)第七一四号同五年七月一九日第二小法廷判決・裁判集民事一六九号二四三頁参照)。したがって、本件において、被上告人は、本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる。

 

最判昭和46.1.26 (遺産分割後の第三者)

 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法一七七条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないものと解するのが相当でおる。

 

最判昭和39.3.6 (遺贈)

 不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(当裁判所昭和三一年(オ)一〇二二号、同三三年一〇月一四日第三小法廷判決、集一二巻一四号三一一一頁参照)、遺贈は遺言によつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである。しかるときは、本件不動産につき遺贈による移転登記のなされない間に、亡長次郎と法律上同一の地位にある利作に対する強制執行として、利作の前記持分に対する強制競売申立が登記簿に記入された前記認定の事実関係のもとにおいては、競売申立をした被上告人は、前記利作の本件不動産持分に対する差押債権者として民法一七七条にいう第三者に該当し、受遺者は登記がなければ自己の所有権取得をもつて被上告人に対抗できないものと解すべきであり、原判決認定のように競売申立記入登記後に遺言執行者が選任せられても、それは被上告人の前記第三者たる地位に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である。