BEAUTY AND THE BEAST #前編 | すかいうぉーかー

すかいうぉーかー

CRAZY=SPELL−BOUND

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「今日、いきなり休みになっちゃったんで、暇だったら連絡下さい」




1時間ほどして、返信が無いので R1に火を入れる
トリッカーの自賠責が来月までなのだ


気温はそこそこ
Tシャツの上に、紺のタイトパーカーを羽織る


ヨコさんの店に着いて支払いを済ませ、接客中のヨコさんを待とうかと 外に出て煙草に火を点けたところでメールが来た





「軽く走りに行きますか」








談合坂のS.Aはそこそこの混み具合だった
「奥多摩へ」との話だったが、大月を過ぎて都留で降りると言う

段々、装備の防寒能力に不安がよぎりはじめるが
来てしまった物は仕方ない





“彼”とマトモに峠を走るのは初めてだ

実力は看板と共に折り紙付き
知名度も“裏”の世界じゃトップクラスだ

首都高で走ってから4年、再会して連絡を取るようになってからは1年が経つ

幾度か予定が合わずに、走る話が駄目になっていたのだが
出来れば年内に1回は走りたかった






乗り手のヤバいオーラをたっぷりと纏った白い貴婦人が、ゆっくりとサービスエリアを出る

大怪我から復帰して“すっかり遅くなりました”と言う俺を気遣ってか、200も出さずに
風のように車線を縫い取りながら 全く無駄の無い姿勢で中央道を滑空する


大月JCTを左へ
都留で降り、モスバーガーで昼食を取ると、ガスを補給して山道へ

全く走った事が無い道
“彼”は、全く力む事の無い背中で 絶妙に俺を誘導する




「おいおい汗

長尾峠を更に狭くしたような道に入る
落ち葉に埋もれた路面 車の轍をなぞりながらヒイコラと通過する


コーナー3~4つ先に出たり消えたりするテール

だが、自分のペースで



細くなったり、広くなったり
幾度か曲がり、小さな村をいくつも抜け

時に状況に応じて加速する背中を追いながら
段々道が良くなって行く






(この人の走りは、本当に綺麗だ)



マージンの幅の多さを物語るように、吸い付くようなリーンウィズ
ふとした直線でワープするCBRは、どんな曲率のコーナーが迫っても事前に分かっているかのような減速と進入角度で尻をふり
極限までシェイプされた加速・減速が、アベレージの高い滑らかな走りを生み出す

どちらかと言うと、キーコに近い




別について行けないペースじゃない

気を使わせているのは明らかだが、朝から少しずつペースを上げるタイプの俺としては、逆に速度を“プロデュース”してくれているのが心地良い

今年の集大成のように、1年かけて再構築して来た「走り」で
初秋の色付き始めた山間部を、最高のコンディションで走り抜け

体も感覚も暖気を終え
いつまでも続く、1つとして同じ物のない 数百のカーブ達をクリアして行く




不思議だった

まるで、R1が喜んでいるかのような




松姫峠から奥多摩へ

右折して見慣れた橋を渡り、駐車場に向かってウインカーが光る











(違う)











停止したCBR
バイザーを上げた“彼”が、何かに気付いたように空を仰ぎ コチラを向いた

















「・・・このまま都民の森まで行って、休憩します?」
















2台が
さっきまでとは明らかに違う排気音を上げて、駐車場を飛び出した


2速のまま引っ張り 山間に轟くR1の咆哮に身を浸して、10000rpmで光るシフトインジケーターの白い光を見ながら










俺は満面の笑みで、少しだけ“封印”を解いた



(続