「太き骨は先生ならむ
そのそばに
小さきあたまの骨
あつまれり」
被爆歌人正田篠枝さんのこの短歌は、原爆の劫火の中で、教師を頼りながら死んでいった児童・生徒と、彼らを気遣いながら死んでいった教師の無念さを表現しています。
老いて涙腺が緩くなった爺は、この歌に涙がこぼれました。
この歌を追悼の辞とした石破首相の平和記念式典のご挨拶、心に沁みました。
戦争の恐ろしさも原爆の悲惨さも忘れ去られ、歴史を改ざんし、開戦を恐れないかのような勇ましい意見が増え、核装備をしろと言うような候補者が選挙で多くの票を集め国政に送り込まれている今、決して過ちを繰り返してはならないとの願いが国民に伝わることを祈ります。
ご挨拶の中で″NPT(核兵器不拡散条約)"に触れられていましたが、非核三原則(核兵器を「持たず、作らず、持込ませず)も知らず、核武装や徴兵制を主張する候補者が当選するご時世ですから″NPT(核兵器不拡散条約)"など知らない人が国民の大半なのでしょう。
■NPT
″NPT(核兵器不拡散条約)"は核兵器の不拡散に関する条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons:NPT)で、1968年7月1日に署名開放され、1970年3月5日に発効し、我が国は1970年2月署名、1976年6月批准しています。
NPTの主要規定・・・前文、条文全11条及び末文から構成
- 核兵器国の核不拡散義務(第1条)
- 非核兵器国の核不拡散義務(第2条)
- 非核兵器国によるIAEAの保障措置受諾義務(第3条)※ 締約国である各非核兵器国は、原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止するため(以下省略)
- 締約国の原子力平和利用の権利(第4条)
- 非核兵器国による平和的核爆発の利益の享受(第5条)
- 締約国による核軍縮誠実交渉義務(第6条)
- 条約の運用を検討する5年毎の運用検討会議の開催(第8条3) 「
- 核兵器国」の定義(第9条3)
条約の目的と内容
核不拡散:
- 米、露、英、仏、中の5か国を「核兵器国」と定め、「核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止。(第1、2、3条)
- 第9条3「この条約の適用上、「核兵器国」とは、1967年1月1日前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国をいう。」
- 原子力の平和的利用が軍事目的に転用されることを防止するため、非核兵器国が国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾する義務を規定(第3条
核軍縮 :
- 締約国が誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定(第6条)
原子力の平和的利用:
- 原子力の平和的利用は締約国の「奪い得ない権利」と規定(第4条1)。
NPT体制への挑戦
- (ア)NPT体制内の問題(条約締約国が条約上の義務を不履行):
イラク(1991年)、北朝鮮- (イ)NPT体制外の問題:インド、パキスタンの核実験(1998年)
NPTの一つ目のポイントは国連安全保障理事会常任理事国でもある核兵器国の米、露、英、仏、中以外、非核兵器国は核兵器の保有も開発もしてはならないということです。
もう一つは核の平和利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止しなければならないということです。
北朝鮮のように独裁政権で戦争をする覚悟のある国や、インドとパキスタンのように衝突を繰り返している国もありますが、平和を維持するためには核兵器開発などもっての外です。
■国連敵国条項
国連敵国条項は国連憲章第53条、108条の2つの条文です。
第五十三条
- 安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極又は地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によつてとられてはならない。もつとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第百七条に従つて規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
- 本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であつた国に適用される。
第百七条
- この憲章のいかなる規定も、第二次世界戦争中にこの憲章の署名国の敵であつた国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。
〇敵国条項は削除されたか?
- 敵国条項については、1995年、「国連憲章第53条、第77条および第107条における『敵国』への言及を削除することを決意する」との総会決議が採択された。
- しかしながら国連憲章を変えるためには、憲章108条の規定により、総会の構成国の3分の2の多数で採択され、且つ、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって批准される(中国が反対したら絶対に批准されません)ため、未だ批准されていない。
〇敵国とは?
- 「敵国については明記されていませんが、第二次大戦中の枢軸国(日本、ドイツ、イタリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、フィンランドの7カ国)が考えられます。
- しかし大日本帝国とドイツ以外の5か国は、第二次大戦中に枢軸国側から離脱し、ドイツ、或は枢軸国に宣戦布告しています。
- すると日本とドイツということになりますが、ドイツは敗戦によりナチス時代の「ドイツ国Deutsches Reich」から「西ドイツ:ドイツ連邦共和国 Westdeutschland」と「東ドイツ:ドイツ民主共和国Deutsche Demokratische Republik」に二分され、いずれもドイツ国の継承国ではなく「国際法人格」が変わったため対象外とする説があります。
- そうすると残るは日本だけということになる可能性もあります。
■プルトニウム
NPT第3条では原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止するためIAEAの保障措置受諾義務が課されています。
これは内閣府原子力政策担当室の“令和6年における我が国のプルトニウム管理状況”にも書かれていますが、現在のプルトニウム保管量は令和6年末時点で国内外において管理されている我が国の分離プルトニウム総量は約 44.4トン。うち、国内保管分は約8.6トン、海外保管分は約35.8トンとなっています。
天然ウランには核分裂を起こすウラン235が約0.7%しか含まれず、残りの99.3%はウラン238だが、原子炉で燃料として使用するためには、ウラン235を3~5%程度に濃縮する必要があります。
プルトニウムは自然界には無い元素ですが、原子力発電の過程でウラン238が中性子を吸収して作られますが、使用済み核燃料を再処理しなければ問題となることはありません。
しかし日本は核燃料サイクルのために、使用済み核燃料を再処理するのでプルトニウムが抽出されます。
現在プルトニウムは44.4トンありますが、プルトニウムは核兵器に転用可能(と言っても軽水炉で作られたプルトニウム原爆には適さないという話もあるが)でNPTの第3条で問題となる可能性もあります。
そこで日本は高速増殖炉ができ核燃料サイクルが実現すれば、燃料として平和利用するとしています。
ついでに触れるとウランを核爆弾として使用するためにはウラン235を90%以上に濃縮する必要がありますが、そのためには膨大な電力を必要とします。
広島に投下されたリトルボーイはウラン型(ガンバレル型)で長崎に投下されたファットマンはプルトニウム型(爆縮型)でした。
これは勝手な想像ですが膨大な電力を必要とするウラン型よりもプルトニウム型が主力になると見られていたが、信頼性がウラン型に及ばないので先にウラン型を投下したではなかろうか?
などと考えてしまいます。
■原爆
出典:長崎原爆資料館
広島に投下されたリトルボーイはTNT換算で16 kt ± 2 kt、、長崎に投下されたファットマンの核出力は、21 kt ± 2 kt と現在の核兵器に比べたら非常に小さいが、もしもかつて米ソが競い合っていたTNT換算50メガトン級の核兵器が使用されたら、人類は終わるかもしれません。




