12日で日航ジャンボ機墜落事故から40年。
昨日のニュースで運輸省事故調査官だった方が事故調査を振り返っておられたので紹介します。
このニュースを読むにあたって航空機事故調査について知っておいた方が良いことが二つほどあります。
- 一つは事故調査の目的で、アメリカはNTSB(National Transportation Safety Board:「国家運輸安全委員会」)という独立した連邦機関が行いますが、調査の目的は原因を究明して将来の事故防止をすることです。これは警察主導で事故の責任を追及する日本との大きな違いです。
- 二つ目は事故の再発防止を目的とするNTSBには、事故の原因究明のために刑事免責して証言を得る司法取引の制度があるということです。
事故原因となった修理を行ったボーイング社の担当者も、司法取引によって免責されているので、日航が全責任を負う事となりました。
記事中には事故のわずか10日後の22日に「現場に来た米国家運輸安全委員会の担当者が「圧力隔壁の修理に不備がある」と日本側に明かした。」とありますが、この時にはすでに原因を把握しており、刑事責任よりも再発防止を優先していることが分かるかと思います。
なお事故の概略についてはFAA(アメリカ連邦航空局)のサイトの″Boeing 747-SR100 Japan Airlines Flight 123, JA8119″に書かれているのでお読みください。
FAAは航空機事故再発防止のためこれまでの事故をアーカイブしていますが、大分人員削減されているので、これからどうなりますことやら・・・・
なおニュースの中で赤字にした部分については分る範囲で捕捉します。
時事通信 配信
「たった1メートル4センチの修理ミスが、520人の命を奪った」―。12日で発生から40年となる日航ジャンボ機墜落事故について、運輸省航空事故調査委員会(当時)は機体後部の圧力隔壁の修理ミスが原因と結論付けた。事故調査官として隔壁を担当した斉藤孝一さん(80)が取材に応じ、当時を振り返った。
斉藤さんが航空機検査官として旧運輸省に入省したのは1964年。海外旅行が自由化され、70年には「ジャンボ」と呼ばれたボーイング747が就航し、大量輸送時代を迎えた。事故調に異動し、12人いる調査官の一員となって間もない85年8月、524人を乗せたジャンボ機が墜落した。
事故2日後に現場に入り、生存者がいたスゲノ沢へ。「あの光景は忘れられない」。おびただしい数の遺体の中を恐る恐る歩き、その日のうちに、事故調査の鍵となる操縦室内の音声記録と飛行記録装置を見つけた。
次に、当初事故原因と目された機体後部ドアを探したが、同月22日、現場に来た米国家運輸安全委員会の担当者が「圧力隔壁の修理に不備がある」と日本側に明かした。これで圧力隔壁に目が向き、「一片たりとも残さないよう」回収した。
ばらばらになった隔壁を組み立てると、直径約4.5メートルのうち約1メートルの結合部が、本来は2列のリベット(びょう)で結合されるべきなのに、1列のみで結合されていた。
事故機は墜落7年前に尻もち事故を起こし、製造元のボーイング社の修理チームが、損傷した隔壁の下半分を取り換える作業を行っていた。上下を結合する際、指示書とは異なり、二つに切断されたプレートを使用したため、強度不足が生じた。
なぜミスが起きたのか。斉藤さんは「指示通り作業すると、ギャップ(隙間)が生じる。作業員は二枚に切って、ギャップを埋めようと思ったのでは」と推測した。
しかし、事故調査の肝となるボーイング社関係者へのインタビューは一切実現しなかった。このため2年後に公表した調査報告書には、「指示とは異なる不適切な作業となった」としか書けなかった。「ボーイング社は日本の警察を恐れたのだろう」
ボーイング社は事故後、修理ミスを自ら認めたが、詳しい理由は今も明らかにしていない。「なぜ(プレートを)切ったか知りたい。将来の教訓にもなる」。斉藤さんは今も願っている。
捕捉
ここに書かれている隔壁は図のPressure Bulkheadですが、1列のみで結合されていたのは下の図の赤丸で囲まれた部分です。
出典;Japan Airlines Flight 123, JA8119 Gunma Prefecture, Japan August 12, 1985
【圧力隔壁損壊図】
図出典:File:Japan Airlines 123 fig32 Damage to af pressure bulkhead.png
後部圧力隔壁は主に下部を損傷していた為、ボーイング社は隔壁の下半分、Lower Bulkheadをそっくり交換するという修理方針を出していた。
下図は圧力隔壁を後方と側方から見た図です。
図出典: “Fire on the Mountain: The crash of Japan Airlines flight 123”
しかし送られてきたLower Bulkheadは一部が短く、追加の作業が必要となり、それが事故の原因となりました。
次の【図1】は圧力隔壁の左半分を拡大して後部から見た図です。
L18を境に上部圧力隔壁と下部圧力隔壁に分かれますが、下半分の下部圧力隔壁を交換しました。
【図1】
図出典: “失敗知識データベース-失敗百選 御巣鷹山の日航ジャンボ機の墜落”
交換作業は通常は下左図のように上下のPressure Bulkhead(圧力隔壁)とStiffenerを2列のリベットで固定します。荷重は2列のリベット列により受け持たれ、十分な強度が得られます。(通常は問題のSplice Plateは不要)
しかし送られてきたLower Pressure Bulkheadの長さが部分的に少し足りませんでした。
- そこでボーイング社は下中央の図のように、上下のPressure Bulkheadの間に青色のSplice Plate(継板)を入れ、このSplice Plateによって強度を確保するよう指示書を発行しました。
- ところがこのSplice Plateを挿入した結果が上手くゆかなかったのでしょう、ボーイング社の作業者はSplice Plateを上下に分割し、右図のように取り付けました。
- これではSplice Plateは全くのダミーで、荷重は中央のリベット列のみにかかります。
- やがて飛行のたび毎に繰り返される客室与圧の圧力により上部隔壁はリベットラインにクラックが入り、破断しました。
【通常の結合方法】 【修理指示書の結合方法】 【実際に行われた結合方法】
青い部分がLower Skinの不足を補うためのSplice Plate
図出典: “Fire on the Mountain: The crash of Japan Airlines flight 123”
これは1項に書いたように、本来であればSplice Plateは必要ありません。
ところが送られてきたLower Pressure Bulheadが短かったためにSplice Plateが必要となり、そのSplice Plateは一枚板でなければならないのに、二分割してしまったという意味です。
2項の説明図ではPressure Bulkheadを直線状に描いていますが、実際にはドーム状に湾曲しています。
そのためPressure BulkheadとSplice Plataの間にギャップが生じたのでしょうか。
それを誤魔化すために2分割したのだと思います。
これは最初に書いたように日米の事故調査方法、ポリシーが全く違うから当然ではないかと思います。
NTSBは関係者を刑事免責して調査しているのに、警察主導で刑事責任を追及する日本側にボーイング社が協力するわけがありません。
日本政府もそのような摩擦を起こしたくないと思います。
結局日本航空が全ての責任を負うこととなりました。
しかしボーイングが責任を負わないのは納得しがたいですが、悲惨な事故の再発を防ぐことは何よりも大切です。
この事故の解析により初めて明らかになったことも多々あります。
垂直尾翼等の破壊のメカニズムについては、こちらをご参考にしてください。





