私はリタイアしてもう15年近くになりますが、現役で働いていた時から米国の航空会社の機材品質には呆れ返ることもありました。
かつての航空会社、レガシーエアラインは日本航空や全日空などのように自社で整備部門と整備施設を所有し、重整備まで自社で整備できる能力を有する事が必須でしたが、それが大きく変わる事となったのは1978年、米国の‟航空規制緩和法”の施行によってです。(新興国のエアラインはそれ以前からですが)
これによってLCC(Low Cost Carrier) はじめ多くの会社が新規参入可能となり、既存の航空会社も厳しいコスト競争に追い込まれて変り始め(日本は少し遅れますが)現在に至りました。
小泉政権移行、日本人は規制緩和は良い事だと刷り込まれ規制緩和礼賛の人が多いと思いますが、規制緩和によって失われたものも多く、整備品質、機材品質と引き換えのコストダウンという面があるのは否定できないと思います。
それでも日本のエアラインのパイロットでしたら異常に気付けば、例えば離陸上昇中に鳥がエンジンに吸い込まれればすぐに引き返しますが、アメリカのエアラインのパイロットは多少の事では引き返しません。
私の経験ですがデトロイトの空港の離陸時に鳥を吸い込んたB747-400型機がEngine Vibration Highなどの異常があったにもかかわらずそのまま名古屋空港まで飛んできたことがあります。
到着後の検査で当該エンジンのファンブレードは変形しており全部交換し、ボアインスペクションというエンジン内部検査を行い、さらにHydro Bayというパイロンのコンパートの大きなドアを交換などの作業をしたことがありますが、さすがにこの時は驚きました。
今日紹介するのは1月20日、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港からコロンビアのボゴタに飛ぼうとしていたデルタ航空982便のボーイング757型機ですが、離陸直前に管制塔が別の航空機からデルタ航空機の前輪の片方が外れて転がっていると旨の連絡受けた管制塔からの連絡によって、離陸を取りやめました。
18秒から管制棟との交信が入ります。
ちょっと聞き取りにくいかと思いますが、下に字幕(英語ですが)が出ますので、内容は分かるかと思います。
外れたタイヤはランウェイエンドの方に転がって行き、土手を転がり落ちたようです。
機内からは機体の状況が分かりませんし、自走は出来ませんので整備スタッフとTowing Car(牽引車)を手配してランウェイから出すのに3時間かかったようです。
タイヤが外れた原因はタイヤ交換時の作業ミスでしょう。
参考までに、次のビデオはエアバスA320のノーズタイヤ交換ですが、エアバス系、ボーイング系のいずれも基本的には作業方法は同じです。
- 取り付け方法の概略としては最初にベアリングをホイールにしっかりフィットさせるために、アクスルナットに規定のイニシアルトルク(ファイナルトルクよりも高いトルク)をかけて、一旦緩めた後に規定のファイナルトルクをかけます。
- 次にアクスルナットにロックボルトを取り付け、緩み止めをします。(5分35秒から)
- エアバス系はビデオのようにキャッスルナットとカッターピンでロックボルトの緩み止めをしますが、ボーイング系はセルフロックナット(緩み止めナット)で緩み止めをします。
このロックボルトをしっかり取り付ければタイヤが外れるような事はありません。
作業者がロックボルトを取付忘れた場合は、ボルトが2本余ってしまうので気付くと思いますが、セルフロックナットは何回も使用すると緩み止めの機能が弱くなります。
そのためナットを毎回交換すべきですが、セルフロックナットを交換せず緩み止め機能の弱くなった古いセルフロックナットを再使用すると、ロックボルトのナットが緩んでロックボルトが外れ、アクスルナットが緩んで外れてタイヤが外れる可能性も考えられます。
幸い事故は未然に防げましたが、このまま離陸を始めてしまったら大きな事故となった可能性があります。
ここ数年ボーイング機の事故やアメリカでの事故が多いように感じますが、コスト競争の結果機材品質や整備などの作業品質、そして安全性が低下しているのではないかと懸念されます。