核燃料サイクルという亡霊が消えない理由は? | 夢老い人の呟き

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自民党総裁選で「マスコミは総裁選一色になってしまった」、「今は総裁選を行うべき時ではなく、早急に臨時国会を開き新型コロナ対策を審議すべき」というような批判がありますが、一方候補者たちの論戦で今まで表面化していなかった問題が表面化した事は、プラスとして評価すべきかと思います。

 

 

核燃料サイクルが争点になった

その中でこれは重要だと思ったのは原発政策で、すでに死語かと思っていた核燃料サイクルが争点に登ったことです。

 

核燃料サイクルをなるべく早く手仕舞いするという河野太郎氏に対して、核燃料サイクルを維持しないと原発の再稼働さえ出来なくなるから絶対に維持すべしという岸田文雄氏
これは総裁選の大きな争点になるとともに、原子力村との対決ともなります。

 

核燃料サイクルについては、かつて「このまま「プルサーマル計画」が進めば19兆円を注ぎ込み、電気料金や税金に化けて国民にツケが回り、後世に途方もない負担を残す」と、経産省の現役官僚が危機感を募らせ作成した‟「19兆円の請求書」”という文書がありますが、私も核燃料サイクルは後世に大きな負債を残すものだと思います。

 

 

核燃料サイクルとは

 

元々の核燃料サイクルは図のように使用済み核燃料を再処理工場で処理し、回収したプルトニウムをウランと混合して、MOX燃料を作り、それを発電中に消費した燃料よりも多くの燃料を生成する高速増殖炉で使用して投入量の60倍のプルトニウムを回収してMOX燃料を作る、下図の太い矢印のサイクルです。

※MOX燃料( Mixed Oxide 酸化混合物燃料):原子炉の使用済み核燃料中に1%程度含まれるプルトニウムを再処理により取り出し、二酸化プルトニウムと二酸化ウランとを混ぜてプルトニウム濃度を4-9%に高めた核燃料)

 

図出典:‟「19兆円の請求書」”

 

 

核燃料サイクルの破綻

 

ところが1990年代後半に欧米諸国は技術的、経済的理由から高速増殖炉計画から撤退しました。

日本でも2016年12月21日、もんじゅ廃炉が決定しました。

そして現在は高速増殖炉サイクルからプルサーマル(軽水炉サイクル)となっています。

プルサーマルとはプルトニウムとサーマルリアクター(軽水炉)を組み合わせた、日本の造語です。

 

図出典:‟「19兆円の請求書」”

 


すでに核燃料サイクルは破綻しており、1993年に着工した青森県六ケ所村の再処理工場は設備トラブルや審査の長期化で完成時期が延期に延期を重ね(現時点では2022年の予定)、建設費も当初の約7600億円から2.9兆円に膨らみ、今後さらに増える見通です。

 

 

しかもプルサーマルの燃料効率はわずか1.1倍

しかも使用済み燃料の再処理は主にフランスのラ・アーグ再処理工場で行っているが、日本よりはるかに再処理コストが安いフランスでさえ、MOX燃料を使うプルサーマル発電は普通の軽水炉よりも発電コストが高い。

日本の場合はさらに再処理コストが高いためMOX燃料は価格が高く、発電コストが高くなります。

 

 

なぜ核燃料サイクルは止められない?

 

すでに破綻しており、良いところが無さそうな核燃料サイクルですが、なぜに手仕舞い出来ないか?

これには、私見ですが3つの理由があると思います。

 

1.核兵器不拡散条約とプルトニウム

 

日本は1970年に‟「核兵器不拡散条約(NPT)」”を批准していますが、この条約では 米、露、英、仏、中の5か国を「核兵器国」と定め、 これ以外の国は核兵器への転用を防ぐため、プルトニウムの製造は原則禁止です。

しかし日本は再処理して原発で再利用することを‟日米原子力協定”で認められており、非核保有国で唯一使用済み核燃料の再処理を行い、現在原爆6000発に相当する47トンのプルトニウムを保有します。

そのため原発で再利用する前提が崩れるとプルトニウムの処分を迫られることになります。

 

2.六ケ所村再処理工場と使用済み核燃料の問題

 

六ケ所村の再処理工場が稼働すると、新たに年8トンのプルトニウムが取り出される事になりますが、現状ではプルトニウムを削減する方法はMOX( ウラン・プルトニウム混合酸化物 )燃料としてプルサーマル発電で使用するしかありません。

しかし、MOX燃料で使用しても原子炉1基あたり年間0.3~0.4トン、(全炉心MOX燃料装荷の大間原発では年間1.1トン)との事なので、新たに製造される分さえ到底消費しきれません

 

ではなぜ六ケ所村の再処理工場が中止になると困るのか?

各原子力発電所の使用済み核燃料の管理用量は21400トンに対して、すでに75%の16000トンが貯蔵されています。

出典:原子力・エネルギー図面集 【7-7-1】各原子力発電所の使用済燃料の貯蔵量

 

しかし六ケ所村再処理工場には3000トンの使用済み核燃料が保管されているといわれ、もし再処理工場が中止になれば、各原発は青森県との覚書に従って使用済み核燃料を引き取らねばなりません

 

さらに東京電力などが青森県に中間貯蔵施設を建設しましたが、これも六ケ所村再処理工場を前提です。

 

3.使用済み核燃料は現在は資産、しかし核燃料サイクルが廃止されれば核廃棄物で負債

 

厄介者の使用済み核燃料ですが核燃料サイクルが成功すれば、高速増殖炉で使用される燃料になるということで、現在は会計上は資産に計上されます。

従って使用済み核燃料が多いほど会計上は資産が増えるという、おかしなことになります。

しかし核燃料サイクルが廃止となれば、一転して使用済み核燃料は核廃棄物となり負債です。

 

 

こうやって見ると‟「核兵器不拡散条約(NPT)」”とプルトニウムの問題を除けば、核燃料サイクルは日本のエネルギー政策のための必要性ではなく、原子力村、電力業界の都合によるもの。

この岸田氏vs河野氏の対立については、私は河野氏に軍配を上げます。