インドネシアのライオンエア、エチオピア航空と事故が相次いだ、世界のベストセラー機ボーイング737MAX8ですが、ついに生産中止が決定しました。
生産停止となった背景、影響については“コラム:ボーイング737MAX生産停止、時価総額さらに減少も”をお読みください。
当ブログでは事故の原因、生産停止の原因となったMCAS( Maneuvering Characteristics Augmentation System :操縦特性増強システム)について再度ご紹介いたします。
B737 は1967年に初飛行したベストセラー機で、改良に改良を重ねてきました。
B737MAXでは高効率の新型エンジンとなっていますが、従来型エンジンに比し外径が大きくなっており、このためエンジン取り付け位置が従来機より前方上方となっています。
このエンジン外径が大きくなった事と取り付け位置が変更された事により、機体の迎角が大きくなった時に、エンジンに対する空気力(揚力)により機首上げのモーメントが働きます。
これは迎角が大きくなり失速(気流に対する翼の迎角が大きくなりすぎ、気流が剥離して揚力が失われること) 領域に近づいた時に、より失速しやすくなるように作用し、失速の危険性が増しています。
このため失速を防ぐために強制的に機体を機首下げ方向に動かすのがMCASです。
B737MAXは従来型のCFM56エンジンよりも大型で燃費性能が良いLEAP-1Bエンジンが採用されました。
このためエンジンのナセルが大きくなり、地面とのクリアランスを確保するためにエンジンが前方かつ少し上方に取り付けられました。(下図参照)
つまり大きくなったエンジンナセルがより前方に付きましたが、この空力的影響がMCASが必要となった理由です。
図出典:B737 MAX: Changes To Airframe And Systems
B737MAXも通常の飛行では、エンジンは揚力を発生しません。
しかし、何らかの理由で操縦士が航空機を激しく操縦し、約14°の失速角に近い迎え角を発生させると、エンジンナセルが揚力を発生させます。
それはピッチアップモーメントとして働き、対気迎角:アタック角(AOA)が高いとB737MAXのピッチの安定性が不安定になります。
最も難しい状況は、操作のピッチ比が高い時(ピッチアップの速度が速い時)で、航空機はピッチアップの慣性力によりAOA(迎角)が過度となり、失速する可能性があります。
そのためAOAが高いときのB737AXの、低いピッチ安定性マージンによる失速を防ぐために、ボーイングはMCASを導入しました。
【MCASは次の条件がそろうと自動的に機首を下げ、AOA(対気迎角)を減らして失速を防止します】
- AOAが失速領域に近づいている。(エンジンナセルの発生する揚力が大きくなる)
- 自動操縦がオフ(自動操縦が作動していれば迎角が失速領域に近づかないように制御されます)
- フラップアップ(=機速が速い=エンジンナセルの発生する揚力が大きい)
- 急激な旋回(旋回中は揚力が遠心力に抗するベクトルにも分解されますので、より大きな揚力が必要となり、迎角を大きくする必要がある)
水平尾翼に作用する空気力は昇降舵よりも大きいので、MCASはパイロットによる機首上げの操作に打ち勝ち、機体を機首下げとし、墜落しました。
図出典: FAA evaluates a potential design flaw on Boeing’s 737 MAX after Lion Air crash
機体の気流に対する迎角を図るセンサー(上図のAngle of Atack Sensor)は機首の左右に1個ずつ計2個しかありません。
2個のセンサーでシステムを作動させるためには、そのロジックをAND(センサー2個とも迎角が大となったらMCASを作動)か、OR(どちらか一方が迎角大となったらMCASを作動させる)のどちらかしかありません。
- ANDとした場合にはどちらかのセンサーが故障するとMCASは作動せず、失速を防止することが出来ません。
- B737MAXでは作動ロジックはOR、つまりどちらかのセンサーが迎角大をセンスするとMCASが作動しますが、片側のセンサー故障で誤作動してしまいます。
これがライオンエア、エチオピア航空機が墜落した原因ですが、これを根本的に解決するためには3RDを設け、たとえセンサーが一つ故障しても正常に作動し、誤作動しないようにすることが必要だと思います。Flight envelope protections というMCASに似たシステムを持つエアバスA320neoではAngle of Atack Sensorは3つ装備されています。
このベストセラー機の生産停止がいつまで続くは分かりませんが、ボーイングの経営に与える影響は大きいと思います。
と思いきや、さすがアメリカのナンバーワン軍事企業。
トランプ就任以来うなぎ登りだった株価は現在でもご覧の通り。
どこかできな臭い煙が上がればすぐに回復するのではなかろうか?