コンセッション方式と水道民営化、海外では失敗例も。再公営化が世界の潮流? | 夢老い人の呟き

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規制緩和だ、公務員削減だ、民営化だ、コンセッションだ、水道だ!!」 追記あり(松山市について)

水道民営化」

 

 

 水道法改正法が衆議院本会議で可決されましたが、今国会での成立は見送りとなりました。

この法案のポイントは、民間事業者が水道法の認可を取得し水道事業者となる、後述のコンセッション方式(自治体は事業期間を定め運営権をコンセッション事業者に売却し、その間の運営設備の維持・更新コンセッション事業者が行い、水道料金はコンセッション事業者に支払われる)を導入できるよう改正されることです。

 

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/193-26.pdf

 

 

とりあえず今国会での成立は見送りは嬉しいニュースですが、水道法改正には二つの大きな意味があるように思います。

  1. 一つはなぜに大事なライフラインである水道を民間に任せるかという問題。
  2. もう一つは竹中平蔵氏が推進する、コンセッションという方式です。

 

1.については厚労省の「水道法改正に向けて ~水道行政の現状と今後のあり方~」には次のよう問題が上げられています。

これが民営化の理由となるか否かについては疑問ですが。

 

 

 

 

■上記②について

 

老朽化の進行、更新の遅れは地方自治体の慢性的な赤字体質によるもので、本質的な問題はそこにあります。

 

確かにコンセッション方式により自治体には運営権の売却益が入り、所有権は残るうえに償却費も維持管理費用も職員も不要となる、美味しい話の様に見えます。

しかし何の代償も無しに営利企業であるコンセッション事業社が運営してくれる、打出の小槌のような話があるわけがありません。

コンセッション事業者は運営権の対価を支払い、老朽化した設備の更新や償却費、人件費や管理費に加え、それらに利益を上乗せした収入を得なければなりませんので、結局ツケは利用者である住民が払うことになります。

 

公務員を削減し公的支出を減らしても、支払い先が公共事業体から民間業者に変るだけです。

民営化すれば経費が不要となるような魔法はなく、むしろ不透明になるのが現実ではないかと思います。

 

余談ですが、分割民営化された旧国鉄債務も消えて無くなったわけではなく 国鉄清算事業団 に引き継がれ、さらに平成10年日本鉄道建設公団(国鉄 清算事業本部)に引き継がれましたが、この時点で国鉄清算事業団が有していた国鉄長期債務等の総額は28.3兆円です。

そしてこのうち24.2兆円の債務をが負担し、年金等の負担費用である4.1兆円日本鉄道建設公団(国鉄清算事業本部)が承継し、わずか0.2兆円をJRが負担となっています。

出典:国鉄長期債務の処理及び事業の収支構造

 

 

■上記③について

 

水道法改正に向けて ~水道行政の現状と今後のあり方~」の7、8ページにも自然災害について書かれていますが、災害に対するリスクはコンセッション事業者が負うのか否か、復旧の責任がどこにあるのかが書かれていません。

コンセッション方式の建前としては運営管理の責任はコンセッション事業者ですが、西日本豪雨災害のように水道設備が被害を受けた時の復旧責任が全て民間事業者任せ事業者責任・利用者負担で良いとは思えません。

 

 

■上記④について

 

職員数の減少は高齢化だけの問題ではなく、行き過ぎた公務員削減の結果だと思います。

参考までにOECD雨異国の雇用者全体に占める公務員の比率を比較してみると日本は加盟国中最低であり、2015年はノルウェー30.0%OECD平均18.1%に対し、日本は5.9%です。

出典:ガベージニュース 公務員数の多い少ないの実情をグラフ化してみる(最新)

出典の原典:「 【「Employment in general government as a percentage of total employment」(雇用者全体に占める一般政府雇用者比率)】 」、「https://www.oecd-ilibrary.org/sites/gov_glance-2017-24-en/index.html?itemId=/content/component/gov_glance-2017-24-en」「https://read.oecd-ilibrary.org/governance/government-at-a-glance-2017/employment-in-general-government-as-a-percentage-of-total-employment-2007-2009-and-2015_gov_glance-2017-graph44-en#page1

 

いかに日本の公務員が優秀といえども、これで他国並みの行政サービスが出来るわけがなく、その分は民間業者に回されているだけです。

例えば学校給食も大分問題が起きていますが、民間事業者に任せれば本当に効率化するのか?サービスの質は低下はしないか?新たな利権の温床とならないか?

等々疑問で、私は現在の民営化は行き過ぎだと思います。

 

公務員の給料は無駄だと思っている人が多いかも知れませんが、公務員の給料は消費となって経済を回します。

GDPには三面等価の原則があり、雇用者報酬も消費支出もGDPに繋がりますし、これは公務員でも民間雇用者でも同じです。

「21世紀の資本」の著者ピケティ教授は来日時、「物価を上昇させるにはどうすれば良いか?」という質問に対し、「公務員の給料を上げれば良い」と答えましたが、「公務員を減らせ」はGDPを減らす事にも繋がります。

 

 

コンセッション方式

 

下図出典:内閣府 コンセッション(公共施設等運営権)事業

コンセッション方式とは上図のように民間事業者が運営権の対価を払い運営権を得て住民にサービスを提供し利用料金を得る方式です。

 

もう少し詳しくいうと、高速道路、空港、上下水道などの料金徴収を伴う公共施設などについて、下図のように施設の所有権を発注者(公的機関)に残したまま運営を特別目的会社として設立される民間事業者(以下、SPC)が行うスキームを指します。

 

SPCは、公共施設利用者などからの利用料金を直接受け取り、運営に係る費用を回収するいわゆる「独立採算型」で事業を行う事になります。

 

「独立採算型」事業では、SPCが収入と費用に対して責任を持ち、ある程度自由に経営を行うことができます。例えば、利用者の数を増やすことによる収入の増加や、逆に経営の効率化による運営費用の削減といった創意工夫をすることで、事業の利益率を向上させることが可能です。

 

コンセッション方式を事業に適用した場合、まず発注者とSPCがコンセッション契約を締結します。コンセッション契約では、両者間で事業期間、SPCに委託する事業範囲、SPCが公的機関に対して支払うコンセッションフィー(運営権対価)の金額、利用料金の設定に関する制限(上限金額など)などについて取り決めます。 

 

SPCは、事業主体である株主が発注者とコンセッション契約を締結し、事業を運営していくことだけを目的として設立している特別目的会社です。このような観点において、出資者こそがコンセッション事業の民間側の事業主体である、といえます。 

 

以上、コンセッション/公共施設等運営権制度とは(定義・運営スキーム) より引用

 

コンセッション方式についてはまだ分からないところもあり、私もまだ勉強中ですが、簡単にいえば運営権の売却で、 運営設備の維持・更新営利目的の特別目的会社であるコンセッション事業者独立採算制で行いますが、これで良いのかという疑問が残ります。

 

 

 

海外の失敗例

 

ー前略ー

海外では失敗している「水道民営化」

 

ただ、この水道事業民営化においては、海外ではいくつか失敗例も見受けられます。水道の民営化の失敗例としてよく知られているのが、マニラボリビアの事例です。

 

マニラは1997年に水道事業を民営化しましたが、米ベクテル社などが参入すると水道料金は4~5倍になり、低所得者は水道の使用を禁じられました

 

またボリビアは1999年に水道事業を民営化したものの、やはりアメリカのベクテル社が水道料金を一気に倍以上に引き上げ、耐えかねた住民たちは大規模デモを起こし、200人近い死傷者を出す紛争に発展しました。

 

当時のボリビア・コチャバンバ市の平均月収は100ドル程度で、ベクテル社は一気に月20ドルへと値上げしたのです。大規模デモは当時の政権側は武力で鎮圧されましたが、その後、コチャバンバ市はベクテルに契約解除を申し出ると、同社は違約金と賠償金を要求してきたそうです。

 

世界の潮流は「再公営化」

 

外資が参入してきて水道料金を引き上げ、水道料金が支払えない低所得者層は水が飲めずに、衛生上よくない水を飲んで病気になるケースもみられます。

 

民間の水道事業者が利益ばかり追いかけたことにより、「再公営化」が世界の潮流となりつつあるという指摘もあります。

 

この外資企業と言われるのが「水メジャー」と呼ばれる企業で、2強と呼ばれるのがスエズ・エンバイロメント(フランスや中国、アルゼンチンに進出)とヴェオリア・エンバイロメント(中国、メキシコ、ドイツに進出)です。いずれもフランスの企業です。

ー引用終了ー

ヴェオリア・エンバイロメントは浜松市の下水道コンセッションに参入(「浜松市が日本初の下水道コンセッション、優先交渉権者にヴェオリアら」ご参照)していますので、上水道にも参入すると思います。

 

 

以下 環境持続社会研究センター「マニラの水道民営化の失敗」より引用

ー前略ー

 民営化後、まず行われたのは雇用削減であった。当初5400人いた職員は2000人にまで削られた。3000人あまりの職員は職を追われたり、退職制度を利用するよう強いられ、その多くがいまだに失業中である。民営化から5年後の2002年12月、マニラッドの撤退が、この民営化の失敗を決定付けた。しかしそれ以前から、いくつもの兆候が失敗を示唆していた。

 

水道料金の高騰

 2003年1月までに、マニラッドの水道基本料金は1立方メートルあたり21.11ペソと、当初の4倍に跳ね上がり、マニラ・ウォーターの場合は1立方メートルあたり12.21ペソと、ほぼ500%にまで上昇した。民営化後初めて料金の値上げが承認されたのは2001年の10月である。これは、1997年のアジア通貨危機によって二社が被ったペソ暴落による外国為替上の損失を埋め合わせるために損失の発生した四半期のみに適用を認められた値上げで、二回目の値上げは2002年に行われた料金の算定基準の改正によるものだった(図1、2参照)。

 

 MWSSの外貨建て融資の90%を引き継いだマニラッドが値上げを承認されたことは、政府がひいきにする民間企業、ロペスの救済策だとの見方が大方であった。2001年3月、マニラッドは一方的に、月々2億ペソ(US400万ドル)の委託契約金の支払いを停止し、料金値上げ後も支払いを再開しなかった。料金を上げてもマニラッドの収支は改善しなかったのである。そして、その責任はフィリピン政府が引き受けることになってしまった。つまり、MWSSの民営化で民間に委譲されたのは利潤だけで、リスクの大部分は委譲されずに政府が抱え続けていたのである。

ー以下省略ー

 

自然災害の多い日本、今回の西日本の豪雨のような災害が起きた場合、そのリスクはSPC(コンセッション事業者)が負うのでしょうか?

それとも公共事業体が負うのでしょうか?

もしも利潤のみの委譲となるのなら、公営の方が良いと思うし、逆に災害に対するリスクも営利企業であるSPCが負うとしたら、そのツケを負うのは住民という事になり、また迅速な復旧が行われるかと不安になります。

 

いずれにしても水道の民営化には賛成できません。