等価線量は実効線量を計算するだけのものか? | 夢老い人の呟き

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今朝のニュースで日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターの被ばく事故について、「肺測定でプルトニウム検出されず」と報道されました。

 

8日に報道されていた「肺に22000ベクレル」「被ばく総量36万ベクレル」も今回の「プルトニウム検出されず」も、体内のα線の測定は不可能ですので、肺モニタ(α線核種のプルトニウム239がα線と共に出す低エネルギーのX線を測定しα線に換算する)での測定値からの推定です。

どちらが正しいのか間違っているのかまだ分かりませんが、体内に入ったα線の測定は不可能で、肺モニタでα線と共に放出されるX線を測定する、あるいは血液中に溶け込んだプルトニウムはバイオアッセイ法で尿を検査するようです。

 

 

 

それはさておき、本題に入る前に放射線の単位をレビューしてみます。.

出典:放射線の基礎知識

 

 

 

被ばくには外部被ばくと内部被ばく被ばくがあり、これは良く知られていますが、この時使う線量には「実効線量」「等価線量」があり、内部被ばくなどの局所被ばくには等価線量を考える必要がありますが、これは一般的にはあまり知られていません。

 

■ 「等価線量」 はある臓器がどれだけ放射線の影響を受けるかという概念で、ある臓器の等価線量(㏜)は 臓器 の平均吸収線量(Gy) ×放射線の放射線荷重係数 で求められます。

※眼の水晶体の等価線量に対しては、「5 年間の平均が 20mSv/年を超えず、いかなる 1 年間においても 50mSv を超えないようにすべきである」となっています。

甲状せん被ばくなども同じように考えるかというと、おかしな事に違うようです。

出典:放射線の基礎知識

 

 

■そして各臓器の等価線量にその臓器に対応した「組織荷重係数」(tissue weighting factor)を掛け合わせて、すべての臓器について足し合わせたもの(臓器の違いによる放射線感受性の違いを平準化して一つにまとめた線量)を 「実効線量」(effective dose)と呼びます。

出典:放射線の基礎知識

 

 

外部被曝については全身に均一に放射線を浴びる場合には、放射線のエネルギーから簡単に実効線量に換算できます。

例えば全身に1mGy浴びると、各臓器の等価線量を合計すれば1mSvになります。

 

出典:放射線の基礎知識

 

 

しかし局所的に被ばくした場合には、放射線エネルギ―に対して実効線量は小さくなります。

下のように頭部だけに1mGy被ばくした場合には、実効線量はわずか0.07mSvとなります。

 

出典:放射線の基礎知識

 

ではこの時の脳や甲状腺に対する影響は、実効線量0.07mSv、つまり0.07mGyの放射線を全身に受けた場合と同じでしょうか?

 

 

■プルトニウムの吸入やヨウ素131による甲状腺被ばくは、体内の一部に放射性物質が集中します。

甲状腺被ばくでは原発事故直後、半減期わずか8日のガス化したヨウ素131を吸入や皮膚からの吸収、あるいは事故後の牛乳なとからの摂取するなどで体内に入ったヨウ素は甲状腺に取り込まれ沈着し、甲状腺がんなどの原因になります。

 

■甲状腺に対する「等価線量」

甲状腺の平均吸収線量(Gy) ×放射線の放射線荷重係数(γ線=1)」となります。

例えば100mGy吸収されると等価線量は100mSvとなります。

しかしこれを全身被ばくに換算すると「実効線量」「組織荷重係数」である0.04を乗じて、わずか1/25の4mSvとなります。

 

甲状腺に対する放射線の影響を考える時、甲状腺に対する影響の概念である「等価線量」で評価するか、それとも全身被ばくに換算した「実効線量」で評価するかで大きく変わりますが、私は「等価線量」で評価すべきだと思います。

 

 

■しかし日本ではどういうわけか、全身被ばく換算の「実効線量」で評価します。

2013/1/28付 日経新聞

「甲状腺被ばくと等価線量とは」

 ▼甲状腺被曝と等価線量 原発事故後、体内に取り込まれた放射性ヨウ素は甲状腺にたまりやすく、がんのリスクを高める。1986年のチェルノブイリ原発事故後には子どもの甲状腺がんの増加が確認されるなど、特に子どもは影響を受けやすい。福島県は18歳以下全員を対象に甲状腺検査を行っている。

 等価線量は体内の個々の臓器や組織が受ける被曝線量を表し、体全体の内部被曝線量を表す「実効線量」に比べると大きな値となる。甲状腺の等価線量が20ミリシーベルトの場合、実効線量に換算すれば0.8ミリシーベルトとなる。

 

しかし特定の臓器に集中している被ばくを、全身被ばく換算で評価するのはおかしいと思いますし、第一、ひとつの臓器の等価線量だけから、全臓器の等価線量の和である実効線量を換算するなんて、根本から間違っていると思います。
こんなのはインチキではないでしょうか。

 

もうひとつインチキを紹介しますと、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)という名前を聞いた事があるかと思います。

福島第一原発事故でこのシステムが生かされる事はありませんでしたが、「放射線の基礎知識」の43ページ44ページ(全63ページ)に次のような記載があります。

SPEEDIによる解析では甲状腺等価線量がとんでもない事になっておりました。

なるほどSPEEDIは廃止されるわけだと納得ですが、この時の政権党も未だに反省の弁が聞かれない事が、信頼されない理由ではないでしょうか。

 

半減期が8日で体外にも排出されているであろうヨウ素131を2週間も経ってからスクリーニング検査をしてもね~、、、、

なお、甲状腺の等価線量100mSvは実効線量4mSvです。

 

下の図を見るとさらにとんでもない試算となっています。(以下等価線量)

赤い実線の内側は1000mSv、赤い破線の内側は500~1000mSv、黄色線の内側は100~500mSvです。